自分で見たわけじゃないから
いつものように部室に入ったら準レギュラーの・・・・・・名前は忘れたけれど2年が泣いていた。
側にいた忍足と跡部が難しい顔をしていたから厄介事かと思って関わりたくなかった。
「滝、ちょっと話あるねんけど」
「・・・・・・・・・・・・拒否権は?」
「あるわけねーだろ」
ああ、もう。
なんだって関わりたくないと思ってることに人を巻き込むんだろう。
でもここで断ることは絶対に無理だから仕方ない。
名前も覚えていない準レギュラーの後輩と関係があるんだろうか。
この場にいるということは大いに関係ありか。
「宍戸も鳳も日吉も、ちょっとええ?」
「話なら岳人とジロー来てからにしない?何度も同じ事聞かされるの嫌なんだけど」
「ジローには後で話す。それに、アレが来る前に話さんと意味ないんや」
忍足の言葉にオレは違和感を感じた。
忍足、今岳人のことなんて呼んだ?
『アレ』って、何?
名前で呼べよ。
だけど、忍足はそんなこと全然気にせずに話を進めた。
オレは忍足の態度に引っかかるものを感じながら話を聞いた。
話された内容は、悪いけど、信用するに値しなかった。
「夕べ、跡部とおったら、コイツがホテルから出てくるんを見た。
何でそんなトコからと思ってな、話聞こうとしたんや。
けど、真っ青になって震えとって・・・・・・様子、おかしかったん」
「落ち着かせて話を聞いたんだ。そしたらコイツは・・・・・・
岳人に、無理矢理・・・・・・やられた・・・・・・暴行されたって・・・」
一瞬驚いた。
岳人が、無理矢理?
断っておくと、暴行されたというその後輩は、オレと同じぐらいの体格。
岳人との身長差は10cm近くあるし、腕力だってどう見ても岳人の方が下。
むしろ、暴行されたというなら逆だろう。
岳人が暴行できるだけの要素が一つもない。
「岳人が、ねぇ・・・・・・そんなことできるとは思わないけど、
何か弱みでも握られてた、とかそういうオチ?」
言った途端に向けられる非難がましい目。
意見言っただけでそんなに怒りをぶつけられてもちょっと困る。
かといって怖がって自分の意見をいえなきゃ、そんなのおかしい。
「質問してるだけなんだけど」
「・・・・・・脅され・・・たんです・・・・・・」
後輩が小さな声で言う。
忍足と跡部は痛ましい目で彼を見た。
「最初・・・最初は、先輩・・・すごく辛そうに話し掛けてきて・・・・・・だからオレも・・・相談に乗って・・・・・・
でも・・・っ・・・・・・先輩は、その後・・・上下関係を利用して・・・・・・
先輩に逆らう気かって・・・・・・それで・・・・・・オレを・・・っ無理矢理・・・
・・・岳人先輩が・・・つ、次の試合で・・・もしかしたらレギュラー落ちるかもって言って・・・
そんなことになったのは・・・お、オレが・・・実力つけてきたからだって・・・・・・
・・・オレが、テニス部やめれば・・・・・・自分はまだレギュラーでいられるんだって・・・・・・」
最後の方は涙声だった。
だけど、話を聞いてもオレは騙されなかった。
わかってしまったから。
この話が嘘だということに。
岳人がレギュラー落ちの危機にあることは承知していた。
そしてこの後輩が実力をつけているというのも聞いていたような気がする。
だが、それはあくまでもシングルスで見た場合の話だ。
準レギュラーに限らず、氷帝のレギュラーは誰でもシングルス・ダブルスどちらにも対応できる
プレーヤーとなっている。
たった一人の例外を除いて。
岳人はダブルス専門。
一応パートナーの忍足もダブルス専門ではあるが、必要とあらばシングルスにも対応できる。
当たり前だが、そんな中で岳人がレギュラーの地位を守るのは大変な事だった。
目の前の後輩は確かにダブルスができる。
しかし、それは岳人の実力には遠く及ばない。
彼は寧ろ、シングルス向きだろうと誰もが知っている。
シングルスプレーヤーならいくらでも代わりはいる。
だが、ダブルスプレイヤーで岳人を凌ぐものはそういるわけではない。
そこから考えると後輩の言っていることはちょっと辻褄が合わない。
誰か、気付かないのかな―――
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