昨日まであんなに楽しそうだったのに、今では―――
「たきちゃーん」
教室に入ると眠そうなジローが背中から抱きついてきた。
いつものことなのでそのまま自分の席に座る前に背中からジローを引き剥がす。
「今日はちゃんと練習してたね、ジロー」
「うん。えらい?」
「偉くない、当たり前」
いつもよりも少し冷たい言い方をした。
それに気付いたのかジローはちょっと気を悪くしたみたいだった。
「・・・・・・おこってるの?」
「何に対して?」
「・・・・・・たきちゃんは・・・わかってて、そういういいかたするんだもん・・・・・・」
「・・・・・・そうだよ、怒ってる。わかってるならこれ以上オレを怒らせないで」
「そんなの、むり」
ジローはオレの前の席の椅子に座り、少しだけ哀しそうに笑った。
「・・・・・・がくと、かわいそうだね」
「・・・そうだね」
「でも、オレはたすけない」
「・・・知ってるよ」
先ほどのテニスコートでの会話はしっかりオレの耳に届いていた。
岳人は気付いていなかったようだが、ジローは岳人を守ろうとはしない。
忍足達の方につく、と決めたようだ。
その理由を聞こうとは思っていない。
普通に考えて、いじめられている子を守ろうなんていう奴はそんなにいないんだから。
いじめをなくそう、なんて学級目標、金八先生かさわやか3組ぐらいでしか成り立たない。
いじめられてる子を見て可哀想と思う奴は結構いる。
だけど助けようと思えば、必ず躊躇する。
助けた後のリスクを知っているから。
自分もいじめられる可能性を知っているから。
きっとジローもそのリスクを負えなかったんだ。
別にそれを責めるつもりはない。
誰だって自分が傷つくのが一番怖いんだから。
「たきちゃんは、こわくないの?」
「怖い」
きっぱりと言い切った。
ジローは難しい声を出してオレの机に伏してしまった。
「こわいのに、がくとのみかたー?う〜ん、わかんない・・・・・・」
「オレもよくわからないよ。気持ちを言葉にのせるのは難しいからね」
「・・・・・・たきちゃんって、時々むずかしい・・・・・・」
「・・・・・・岳人は、オレ達よりももっと怖いんだ」
当たり前のことを呟くと、ジローははっとした表情になった。
まさかとは思うけど、気付いてなかったのか。
ただいじめを見てる側は辛い。
巻き込まれる側も辛い。
だけど一番辛いのは、いじめられる人物。
岳人のことだから巻き込まれたオレ達のことまで思って、余計に辛いだろう。
「・・・・・・ねぇ、ジロー。もしも、もしも恐怖に耐えかねたら―――
岳人をいじめることが怖くてたまらなくなったら、ちゃんと言いなよ?
怖いのは、ジローだけじゃないからね」
「・・・・・・・・・いえるかなぁ?」
「言えるよ。その時には、言わなきゃ自分が壊れちゃうところまで追い詰められてるはずだから」
「滝、ジロー」
完全に寝てしまったジローの髪を撫でてると不機嫌そうな声が降ってきた。
宍戸だ。
会話を聞いていたんだろうか。
「何?」
「話がある。ってか、その前にジロー、どけ」
ジローが座っている席は本来宍戸の席。
ジローの席は本当はその隣だ。
もうジローが宍戸の席に座って寝るのはいつものことなので(オレと話したまま寝てしまうから)
宍戸がこうやってジローをどかそうとするのは珍しい光景だった。
ジローは起きようとせずにいびきまでかいているので、仕方なしに宍戸は立ったまま話をした。
「お前、あの話の何処をどう聞いてアイツの味方しようなんて思ったんだよ?」
その言い方が岳人を完全に悪者扱いしているように聞こえた。
なので少しムカついて冷たく言った。
「その言葉、そっくり返すよ。
宍戸こそ
『岳人が後輩をレイプしてテニス部止めろって脅しをかけた』
なんて話、どうして信じるのさ?」
話していても楽しくなくなったのは他人から聞いた事件が始まり―――――
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