ガンダムSEED DESTINY アナザーストーリー

RUN IN A WORLD〜世界を駆ける者〜











「やぁ、これは姫。遠路お越しいただき、申し訳ありません」

仰々しい口調と手振りでカガリを向かえるギルバートにルーラリアは心の中で舌打ちをした。
彼女にとっては芝居じみたことをされてもなにやらカガリとギルバート自身を対等と見ていないとしか思えない。
これもカガリとの会談での牽制になるのだろうか、それなら姫などと呼ばずアスハ代表と呼ぶべきではないのか?

(人をバカにするにも程がある・・・・・・)
(ルーラ、言いたいことが顔に出てます)

ニコルがあきれたようにごく小さな声で囁いた。
彼に言わせればカガリと同じくルーラリアももっとポーカーフェイスを学ぶべきである。

「やぁ。議長にもご多忙のところお時間を頂き、ありがたく思う」

カガリは気おされることのないよう、ギルバートと握手を交わす。

「そしてそちらは、エルミッシュ医師ですね?これは可愛らしいお嬢さんだ」
「ええ。はじめまして、デュランダル議長。このたびの会談にわたくしをご推薦いただき、非常に感謝しております」

深々と頭を下げることでルーラリアはギルバートとの握手に応じない姿勢を見せた。
そしてあれほどこの会談にくることを嫌がっていたのにそんな素振は見せずあくまで爽やかな笑顔のままでの挨拶。

(・・・・・・久しぶりにタヌキっぽいところを見たな・・・・・・)

アスランはそんな彼女と初めて会った時のことを思い出した。
あの時も彼女は爽やかを装いつつ心の中ではクルーゼに対して毒を吐き、アスラン達に対しても表では笑顔を、心の中では警戒心を、と恐ろしいまでにその顔を使い分けていたのだ。
そんな彼女をイザークがタヌキ、と呼び始めたのが影のあだ名となった事をルーラリアは知っているのだろうか。
いや、知っていたら彼女の性格上、イザークは事故に見せかけて沈められているだろう。

思いつつ、アスランはギルバートに軽く頭を下げた。
ギルバートも会釈をし返す。
ふとそれを見ていたニコルは胸騒ぎを感じた。
アスランが偽名を使い、顔を隠していることをこの男は見抜いたのではないか、と。
勿論、アスランの方とてサングラス一つしているだけで正体がばれないと思っているわけはない・・・と思いたいのだが。

アスランはあの戦争の後、オーブに亡命した(自らの意思ではなくさせられたらしいが、本人もそれを受け入れているので問題はないだろう)。
今でも素性は隠している(つもりらしい。周りから見ればどこか抜けていると思わざるをえないのだが)。
そうでなくとも先の大戦で勲章は授与されるわ最新鋭機のパイロットとなるわそのままオーブと行動をともにした挙句ジェネシスを破壊してオーブに亡命・・・・・・と16歳とは思えないほど波乱万丈の人生を送った彼の立場は相当微妙なことになっているのだからその行動はある意味では正解とも言えるのだが。

(もっとも、僕もアスランのことは言えないけれど)

ニコルも同様に軍には復帰せず、公式の場では髪を染め、伊達眼鏡をかけるという変装をしている。
アスランに比べたらばれる可能性なんて限りなく低いんじゃないか。

ギルバートはカガリに椅子を勧める。

「お国の方はいかがですか?姫が代表となられてから実に多くの問題も解決されて私も盟友として大変嬉しく、また羨ましく思っておりますが」
「まだまだ至らぬことばかりだ」

疲れたように言うカガリの言葉は本心だろう。
彼女が問題を解決してきたと言ってもそれはどれも平和のためには小さなことばかりでなかなか前進がみられない。

「で?この情勢下、代表がお忍びで、それも火急な御用件とは・・・・・・一体、どうしたことでしょうか?わが方の大使の伝えるところではだいぶ複雑な案件の御相談・・・ということですが?」

カガリはギルバートの目を見て答えた。

「私にはそう複雑とも思えぬのだがな。だが、未だにこの案件に対する貴国の明確なご返答が得られない・・・・・・と言うことは、やはり複雑な問題なのか?」

ギルバートは少し驚いたようにカガリを見、カガリの側近たちは互いに顔を見合わせる。
カガリは気にする事無く言葉を続ける。

「わが軍は再三再伸、かのオーブ戦の折に流出したわが国の技術と人的資源のそちらでの軍事利用を即座に止めていただきたいと申し入れている」

そのとき、ギルバートの顔に妙な笑みが浮かんだのを見たのはルーラリアだけではなかった。
それが何を意味するのかはまだわからないとはいえ、彼が笑うわけも少しは理解できるとルーラリアは思った。

今更軍事利用を止めたところで別の者がそれを引き継ぐだけだ。
それに、彼らが自ら進んでザフトに手を貸しているとなれば、こちらがそれを無理にやめさせることなどできようはずもない。

「なのに何故、未だに何らかのご回答さえいただけない!?」

カガリの怒りはわかる。
しかし、回答をよこさない理由の一つに自分が考えていることと同じ事があるのであれば・・・・・・
ルーラリアは考えて軽く首を振った。
これは政治を専門とする者達の議論することであって、医者が口出しするような問題ではないだろう。


















一向は場所を変え、工場地区を歩きながら話をしていた。
アスランは目の前をモビルスーツが動いているのをどこか懐かしそうに眺めている。

「姫は先の戦争でも自らモビルスーツに乗って戦われた・・・・・・勇敢なお方だ」

本心はどう思っているのか、ギルバートはカガリを褒め称える発言をする。
真意の読めぬ彼にカガリは無言だった。

「また、最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれたオーブの獅子―――ウズミ様の後継者でもいらっしゃる」
(・・・・・・あれ・・・・・・?)

ルーラリアは今のギルバートの言葉に何か違和感を感じた。
何もおかしいことは言っていない筈なのに。
カガリがモビルスーツに乗っていたことも事実なら、彼女が『オーブの獅子』と呼ばれていたウズミ・ナラ・アスハの後継者であることも事実だ。
何もおかしいところなどないはずなのに・・・・・・?

ギルバートは立ち止まった。

「ならば、今、この世界情勢の中、我々はどうあるべきか・・・・・・よくお分かりのことと思いますが」

アスランはふと上を見て驚いたようだった。
ニコルも彼の視線の先を見て息を飲む。
そこにあるのは重装備のザクウォーリア。
そう、平和なこの時代においてはこれほどの装備は必要としないもののはず―――――

「我らは自国の理念を守り抜く。・・・・・・それだけだ」

カガリはギルバートの言葉を受けてそう言い切った。
オーブの理念―――如何なる争いもしないという―――は人に言わせれば理想論だ。
だが、その理想を誰しもがもてたならそれは理想でもなくなる。
ルーラリアはそんな日がくるなど、今の世界情勢を見る限り思ってはいないが。

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない・・・・・・」
「そうだ」

ギルバートはまた芝居がかった口調で微笑む。

「それは我々も、無論同じです。そうであれたら一番良い・・・・・・」
(どうだか)

ルーラリアは冷ややかな目で彼を見た。
これを見て信じろとでも言うつもりか。
自衛のためとはいえ、モビルスーツの数は半端ではない。

「だが、力なくばそれは叶わない。それは姫とて・・・・・・いや、姫の方が良くお分かりでしょうに」

カガリはオーブが滅んだ様を見ている。
地球軍の侵略により滅んでしまった自国を―――
それを思い出したのか、彼女は一瞬言葉に詰まる。

「だからこそオーブも、軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」

事実であるだけにカガリは言い返せないのか。
彼女はほんの少し黙ったあと、遠慮がちに口を開いた。

「・・・・・・そ、その姫と言うのはやめていただけないか?」
「これは失礼しました。・・・・・・・・・アスハ代表」

仰々しい手振りを見る限り失礼だなんて思ってはいないのではないか。
ルーラリアはやはりこの男は好きになれないと思った。
一同は再び歩き始める。

「しかし、ならば何故?何を怖がっていらっしゃるのです?あなたは・・・・・・」

カガリが何のことだと言いたそうにギルバートを見上げた。

「大西洋連邦の圧力ですか?オーブが我々に条約違反の軍事共有をしていると・・・・・・」

カガリの胸に大西洋連邦との会談が甦る。

「だが、そんな事実は無論ない」

ギルバートは気にした様子もなく話を続ける。

「かのオーブ防衛線の折、難民となったオーブの同胞たちを、我らがあたたかく迎え入れたことはありました」

アスランは自分たち(正確には議長であるギルバートだろう)に敬礼をしている工場内の兵士たちを見た。
彼らの中に、オーブの難民となったものもいるのだろうか。

「その彼らが、ここで暮らしていくためにその持てる技術を生かそうとするのは仕方のないことなのではありませんか?」

正論だ。

「だが!」

カガリが議長に食って掛かると周りのボディーガード達が警戒態勢をとる。

「強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」
(必要のない力の奪い合い・・・・・・それが戦争へと発展していくのは子どもでもわかる図式だよ)

ルーラリアもカガリの言わんとしていることはわかる。
だが、問題はその力なのだ。
持つ力の強大さが、問題となるのだ。

ギルバートはそんなことは自明のことだと言う笑顔で言った。

「いいえ、姫。争いがなくならぬから力が必要なのです」

ルーラリアはニコルを見た。
彼はそれが正論だと言う顔をしながらも、どこか釈然としない面持ちだった。

「そうは思われませんか?お嬢さん」

ギルバートは突然ルーラリアを見た。

「是非、あなたの意見もお聞きしたい」

一瞬、虚を衝かれたような顔を見せたルーラリアはすぐに首を振った。

「・・・・・・では、あくまでわたくしはオーブ国民としてのわたくし個人の考えを述べさせていただきます。
 争いがなくならぬから強大な力を持つ・・・・・・その力こそが我々ヒトを傷つけるのであるのならば、そのような力自体が争いの火種となることをわたくしは否定することができません。それに争いとは元を正せば力の奪い合いでもあり、また、互いが互いを支配下に組み入れようとする動きでもあります。ならば、力を持たず平和の中で有効な関係を持てば争いはなくなり、力もいらぬことでしょう」

ギルバートがバカにしたような笑みを浮かべた。
もっとも、ルーラリアからはそう見えただけなのかもしれないが。

「子どもの理論、と言われればそのとおりです。しかし、平和を維持するためであれば子どもの理論でも充分に事足りると思います。
 それとも・・・・・・議長は、大人の、例えばこちらを信頼してくれる相手の腹のうちを探るための騙しあいといった裏切りじみた行為がなければ平和は維持できぬとお考えですか?」

自分がしていることもその腹のうちを探る行為だ。
それはルーラリア自身もわかっているが、なにせ彼女は最初からギルバートと自分の間に信頼関係などないと断定している。
彼女の勘が、ギルバートだけは信用するなと告げている。

それに、自分は彼と政治的な関係ではない。
国を代表する立場にあるわけではないということをにおわせた発言であればこそ、こうした話をできるだけだ。

「・・・・・・お嬢さんは、なかなか良い意見をお持ちですね」

人をくったような笑みを浮かべるこの男の本性をルーラリアは知りたかった。
だが、相手もさすがと言うべきか、まったく本心を見せようとはしない。

「・・・・・・ヤな男・・・・・・」
「それが政治ですから」

呟いたルーラリアの声は幸い、ニコルにしか聞こえていなかった。
















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あとがき

あ、あれ?なんかルーラリアちゃんの出番少ない?いや、いいんだけど。
なんかアスランはカナ―バ議員に亡命処分にされたと聞いたので。
しかし、議長・・・・・・私、以前にカガリを姫と呼ぶとは何事だと怒ったこともありましたが、ルーラリアをお嬢さん呼ばわりさせる私もどうかと思いました。同レベルです。