知らなきゃよかった
それは本当に偶然としか言いようがなかった。
いつものように暇つぶしに図書館にでもと廊下を歩いていたオレの耳によく知った声が二つ。
一人は同じクラスの城井。
準レギュラーだ。
もう一人は向日先輩。
守月を犯したとか言われて、レギュラー人を敵に回したバカな人。
そのまま素通りして、関わらない方がいい。
元来オレは人と関わるのが好きじゃないから。
だけど二人の会話がオレの足を止めた。
『・・・昨日のことを後悔していると、そう言いました。
あなたに謝りたいけれど、守月が怖くて出来ない、とも』
何のことだ?
今の言葉は、まるで向日先輩が被害者のような言い方だ。
跡部部長と忍足さんから聞いた話だと、守月のほうが被害者のはずなのに。
『・・・・・・・・・あなたにしたって、選択肢は黙ってるか、オレと犬山に相談するか
それぐらいしかないでしょう・・・・・・』
犬山?
どうしてそこであいつの名前が出て来るんだ?
この話を聞いてると、向日先輩が加害者とはとても思えない。
何が真実なんだ?
向日さんが守月を犯したって言う話が本当なのか?
それとも、その話は嘘で、もしかして向日さんが・・・・・・被害者・・・・・・?
関係ない。
関わらない。
そう自分に言い聞かせてオレはその場を離れようとした。
だが、振り向いた途端に、そこにいた人物に一瞬驚いた表情を見せてしまった。
「・・・・・・守月・・・・・・」
「日吉」
いつもの守月とはどこか違う雰囲気。
守月はオレの横に立って向日先輩と城井を見た。
それだけでこいつは状況を判断したんだろう。
守月は、笑って言った。
「あーあ、目立つようなことは控えないと。
聞かれたのがあんまり喋らない日吉だからよかったけど、これが跡部さんたちに聞かれたら
向日先輩が被害者だってばれちゃうじゃん」
聞き間違いなんかじゃない。
守月は確かに向日先輩が被害者だと言った。
それじゃあ、やっぱり跡部さんや忍足さんが言っている事は・・・
「口外すんなよ、日吉。
何のために向日先輩が黙ってるのか知ったら口外したくてもできないかも知れねーけどな」
守月の言葉は怖くなんてなかった。
だけど、向日先輩が黙っている理由は、何故か怖くて聞きたくなかった。
「守月・・・」
「これでオレは同情票集めて、向日先輩はレギュラーから見放されて。
オレはレギュラー取れるだろうし、向日先輩はどうなろうと知ったこっちゃないけど」
守月はくすくすと笑ってその場から立ち去った。
オレはどうしようか迷ったが、すぐにその場から離れた。
オレにできることなんて何もない。
関わりたくない。
実力でここまで上り詰めたのに、こんなことに首を突っ込んだら、
レギュラーの座から外されてしまってもおかしくない。
守月は自分の地位が大切なんだろう。
それは自分だって同じだ。
オレは守月みたいに手段を選ばないなんて事はないだけで、
出来れば厄介事には関わることなく射止めたこの座を不動のものにしてやりたい。
後から思えば本当にバカだったと思う。
心のどこかでわかっていたはずだった。
知った時点で関わったも同然だと。
知ったのに何もしなかった時点で、オレだって跡部さんたちと同じ―――加害者なんだと
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