暫くぶりのデートだというのに、電車が遅れている。
寒さで線路が凍結したそうだ。
よりによって今日か、と影州は肩を落とした。
影州は大学受験で、白雪は卒業論文で忙しいのだ。
だけど、今日はどうしても会いたかった。
だから時間を取ってデートしよう、という話になったのに。

本命の子とのデートでは待ち合わせの時間の20分前には着いた方がいい、と言う紅印の助言をもらっていたのが幸いした。
電車が遅れても5分程度の遅刻で済んだ。
きっちりしている白雪が5分の遅刻を許してくれるのかどうかは疑問だが。



電車を降りたら雪が降り始めていた。
粉雪なのでそれほどベタベタしないとはいえ、こりゃ当然怒ってるよなと思いつつ、影州は待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせは駅前の噴水。
白雪はそこで影州を待っていた。
目が合うとにっこりと笑いかけてくる。
クリーム色のコートに青いマフラー。
似合ってる。
というか、影州にしてみれば、白雪が何を着ていても似合う。
初対面でのあの黄色いスーツはさすがに引いたが。

「悪ィ、電車遅れてた」
「ううん、ボクも今来たところだよ。ボクの方も電車が遅れてたから」

それでも自分から誘っておいて遅刻というのはマイナスポイントだろう。
影州はもう一度謝った。

「もういいよ。それよりも久しぶりのデートなんだから、楽しまなくちゃ」

白雪は影州の手を握って歩き出す。
ひんやりとした感触が影州の手に伝わる。
夏も白雪は手が冷たかった。
冷え性なのか、それとも心が温かいのか。
突然日本刀持ち出したり、笑顔でノーブレスクライミングとか言い出したりしている一面だってあるが、自分と一緒にいる白雪は子どもみたいに可愛い笑顔を見せてくれる。
そういう面を知っているからこそ、彼の心が温かいんだと、はっきり言える。



インテリアを見たいと白雪は言った。
部屋に飾りたいからではなく、この時期にしか置いてない、クリスマス仕様のものがきれいだからだという。
一人で見るだけじゃつまらないが、好きな人と一緒に見るととても楽しいらしい。
それについては影州も同感だった。

「あ、これキレイ」

そう言って白雪が指差したのは、ガラスで出来た小さなツリー。
店内の光に反射して輝いているそれは、幻想的に見えた。
隣においてあるガリレオ温度計も、光を反射して輝いている。

「こっちから見た方がキレイじゃね?」

影州は白雪の身体を引き寄せた。
白雪は影州に言われた場所からガラス細工を見て、頷いた。

「本当、こっちの方がキレイに見える」
「だしょ?買ってくか?」
「ううん。ボクの部屋に置いて会ってもこれほどキレイには見えないもの。キレイに見えるところに置いておくのがいいって思うから」

たぶん、それが白雪の本心だと思うので、影州は無理に買おうとはしなかった。
代わりに影州は、白雪が気に入ったらしい雪だるまとツリーのガラス細工を買った。
置く場所にも困らない大きさだし、これならば部屋に置いておいても充分にキレイに見えるものだ。



店を出てから、二人は港の公園に行った。
何組かのカップルが二人に目を留める。
男二人が珍しいのだろうかと影州は思ったが、白雪は女に見えなくもない。
たぶん白雪の身長が高い所為でちゃんと男に見えて、それで珍しがられているのだろう。
実際は白雪も影州もかなり整った顔立ちをしているために注目を浴びていたのだが、当人達にその自覚はない。

少し疲れた様子の白雪をベンチに座らせ、影州は自販機で飲み物を買う。
お茶がいい、と言われたが、生憎この自販機にはコーヒーと紅茶と冷たいジュースしかない。
いくらなんでも冷たいジュースを買うわけにはいかなかった影州は、仕方なくホットコーヒーを買う。

「ほらよ」
「ありがとう・・・って、これ、コーヒーじゃないか」

白雪のところに戻ると案の定言われた。
予想していたとはいえ、仕方なかったとはいえ、影州は恋人の望むとおりのものを手に入れられなかった自分がちょっと情けなかった。

「仕方ねーじゃん、茶がなかったんだし。無糖だし、いいだろ」
「ふふ、なかったなら仕方ないや。ありがとう、影州くん」

影州は白雪の隣に座る。
雪はやんでいて、ちょっと寒い。

「今日、すごく楽しかった。影州くんと一緒にいると、本当に楽しい。一人でお店見るよりも、影州くんと一緒にいる方が・・・ずっと」
「ん・・・オレ様も。白雪さんと一緒にいると、居心地いいし」

暫く、静かだった。
他のカップルが目の前を通り過ぎるのを見ていた。
港から見える対岸の灯りがキレイだった。
ふと、白雪に目を移す。
雪の妖精みたいだ、と影州は思った。
凛としていて、なのにフワリと温かい、そんな雰囲気が白雪にはあった。
缶コーヒーを飲む彼の横顔を見て、影州は真顔になる。
もうすぐ一日が終わる。
終わってしまったら意味がない。
今がチャンスだ。

「白雪さん」
「何?」

白雪は缶コーヒーから唇を離す。
影州が真面目そうな顔をしているのに気付き、彼も真面目に影州を見る。
影州は大きく息を吸い―――

「これ、受け取ってください」

小さな箱を差し出した。
その中身は白雪にも想像がつく。
ドラマや映画で何度も見ている。
小さな赤い箱、中身はきっと。

「・・・これ、は?」

だけど、言わない。
影州の口から言ってほしい。
どうして、これをあげようと思ったのか。
影州の口からそれを聞きたい。

影州は顔を赤くし、言った。

「誕生日プレゼント・・・と、プロポーズで・・・指輪・・・・・・オレ様と、一緒に・・・ずっと一緒にいてほしい」

耳まで赤くして告白する影州。
何人もの女の事付き合ってきた彼だが、ここまで本気になることなんてなかった。

「らっ、来年になったらオレ様高校卒業すっから・・・それからでいい、一緒に暮らしてくれ!」

影州は頭を下げた。
彼なりに考えた。
本当は今すぐにでも一緒に暮らしたい。
だけどお互いの生活だってある。
それを壊してまで一緒に暮らしても、得られるものは何もないだろう。
影州が高校を卒業し、白雪が大学を卒業する区切りまで待つ。
本気で惚れた相手だからこそ、影州はそうしたいと思ったのだ。

白雪は考えた。
影州と一緒に暮らすことに反対する気なんてない。
ただ、どうしても白雪には、昔好きだった人の事が頭に浮かぶ。
目を閉じて思い出してみる。
今でも鮮明に思い出せる、そう思っていたのに。
楽しい想い出は、昔好きだった人よりも影州といる時の方がたくさん浮かんでくる。
今でも想いは変わらないはずなのに。
そして思った。
いつまでも過去に囚われるな。
好きだった彼は、想い出の中で生き続ける。
だけど、新しい想いをつくることは出来ない。
過去の想い出だけで生きていくような人間になるな。
きっと彼だって、そう言ってくれると思う。
影州の事が好きだ。
好きだった彼への想いは消えないけれど、これからの関係を作っていくのは影州なんだ。

「・・・うん。いいよ」

その一言が、新しい未来を作る。
影州は顔を上げた。

「指輪、はめてくれる?」

すっと左手を差し出す。
影州は箱を開け、白雪の左手の薬指にそっと指輪をはめる。
銀の指輪は、白雪の細くて白い指によく似合った。

「ありがとう。・・・嬉しい」

白雪の目から涙が零れた。
影州は慌てる。

「な、泣くんじゃねーよ!」
「だって・・・嬉しいんだもん・・・」
「な・・・あー・・・オ、オレ様が恥ずかしいから!」
「告白してくれたのに、今更だよ」
「そ、そうだけど!」

白雪は慌てる影州を愛しく想った。
微笑むと、影州もつられて笑う。
お互いの照れた笑顔が、好きだ。

「ありがとう、影州くん。最高の誕生日プレゼントだよ」












あとがき

なにがどうして影雪になったのか、自分でも分かりません。
別に猿野でもいいんじゃないか?とか、大神さん(幽霊設定でも生きてる設定でも)どうしたんだよ!とか、自分でも思います。
でも、初々しい影州や、今までにない素直な白雪さんが書けたので、これはこれでいい気がします。
『真顔になる』をタイプミスで『孫になる』とか打ったときは、ちょっと笑いました。

後日談(双子と剣菱と猿野)