寒がりの自分のために設置された炬燵を堪能しながら、仁王はスマートフォンで時間を確認する。もうすぐ一年に一度しかない大切な日が訪れる。日付が変わったその瞬間に、目の前の恋人に言ってやりたい言葉がある。
普段なら、二人きりの時に目の前でスマートフォンを弄るのはやめなさいと注意を受けるところだが、今日は何も言われない。仁王の目的をちゃんと理解しているからだ。
画面に表示されている時間が0時ちょうどになった。スマートフォンを炬燵に置き、顔をあげると、向かい側に座って微笑みをたたえている紳士と目が合った。
「やぎゅー、誕生日おめでとさん」
「ありがとうございます、仁王くん」
「で、言われたとおりにプレゼントなんも用意しとらんぜよ」
柳生の欲しがるものがなんなのか、仁王はいろいろ考えていた。しかし、読書好きの彼に本を送ろうとしても仁王ではどの本がいいのかわからないし、それ以外のものにしても、まあ柳生は仁王からもらうものなら何でも喜びそうではあるが、特にこれといったものは思いつかなかった。柳生本人にリサーチしたところ、「何も特別なものは要りません。ただ、あなたが私の隣にいてくれればそれだけで十分ですよ」と言ったので、お言葉に甘えることにしたのだ。
柳生は仁王の言葉ににっこり笑って答えた。
「ええ、構いませんよ。私が欲しいプレゼントは目の前にありますから」
「……「仁王くん自身がプレゼントですよ」っちゅうベタな話か」
「そんな贅沢なことは言いませんよ」
いつも愛情たっぷりのこの身を柳生に捧げているようなものだから、それを贅沢と言われても仁王にはいまいちピンとこない。
「私が欲しいのはあなたの『声』です」
声、とは。
「やぎゅ、大好き。愛しとうよ」
「ええ、そのような言葉も非常に嬉しいのですが、普段はあなたが恥ずかしがって聞かせてくれない声を聴きたいんです」
「……」
それはつまり、今から仁王を抱きますという宣言か。
呆れがそのまま表情に出ていたらしく、柳生が怪訝な顔をする。
「なんという顔をなさるんですか。いえ、仁王くんはどんな御顔も可愛らしいですが……」
「紳士にあるまじき恐ろしく低俗な願いだと思っての」
「そうでしょうか。とても紳士的なお願いですよ」
立ち上がった柳生が仁王の隣に座る。炬燵はそんなに大きくないので、体格のいい二人が一辺に座るととても狭く感じる。
柳生の指が仁王の唇をなぞった。
「仁王くん、いつも声を殺そうとしてシーツを噛んだり唇を噛んだりなさっているでしょう?シーツを噛むのはあまり衛生的とはいえませんし、唇を噛むなんて論外です。仁王くんの美しい唇に傷がつくなんて、耐えられません」
「傷て……おまんがつけたがるキスマークはええんか」
「あれは私の所有印ですから。ええ、そうです。私は、あなたに傷付いてほしくないのですよ。ですからこのお願いは、とても紳士的なお願いなのです」
そうでしょう?と言われても、仁王には全くそうは思えない。しかし、今日の主役がとても嬉しそうな笑顔で提案してきたことを断ることなんてできるはずもない。
「……しょうがない紳士じゃの。つきあってやるぜよ」
「ええ、ぜひお願いします」
仁王は軽く目を閉じ、柳生の唇が重なるのを待った。




あとは脳内補完よろしくです。