UNDO 十話








ほとんどすべてを話した。
ケガをした腕を治す為には日本に入られなかったこと。
日本での治療、療養ではケガをする前以上のプレイができないと知ったこと。
そのために日本を離れてケガを治療し、療養、リハビリのために海外にいたこと。
名を変えていた理由も、見つからないようにこうして仲間と一緒にいた理由も。

話が終わるまで、岳人は何か言いたそうにしていたがそれを我慢して静かに聞いていた。

「・・・・・・これが、全部。オレが、姿を隠していた理由」

岳人は何も言わなかった。
ただ、じっとリョーマを見つめていた。
















10分も黙っていただろうか。
岳人はリョーマの目を見て言った。

「・・・・・・それで、オレはどうすればいいんだ?」
「どうって・・・?」
「お前の正体がばれないように、且つ、お前の目的を果たすためにオレはどうすれば言いかって聞いてんだよ!」

一瞬さくやがあっけにとられた顔をしたかと思うと笑い出した。
悪意のある笑い方ではないことから一応は岳人のことを認めたらしい。

「いいじゃん、こういう奴。面白い」
「面白いだけで決めんなよ」
「景吾、何も言ってやるな。さくやはこういう奴が気に入るんだろう」
「類友ってやつか」
「ああ。頭の悪さが仲間意識をつくっているのではないか?」

さくやが麗悟を、岳人が跡部を睨んだ。

「何故越前リョーマに協力する?」

麗悟が鋭い目つきで岳人を睨んだ。
岳人は一瞬怯んだが、強い口調で言った。

「越前がしたいことを、すっげー悩んで決めたことを、オレ達がそれはダメだって頭ごなしに言うのはおかしいだろ!越前に協力して見える事だってあるだろうし。コイツが全部話して、お前等が協力して、それなのにオレがそれをだめだっていう理由がない」

麗悟はそれを聞き、橙華と桐奈を見た。

「・・・・・・その理由が、お前の気持ちと言うのなら・・・それで良いだろう」
「そうね。彼の気持ちはまっすぐだわ」

どうやら橙華と桐奈は岳人を迎え入れることに賛成のようだ。
これでさくや、橙華、桐奈の3人は岳人を迎え入れることに賛成したことになる。
だが、一番賛成するだろうと思っていたカナリアが一人難しい顔をしている。
気づいたさくやが声をかけた。

「カナ、不満か?」
「・・・・・・不満、って言うのかしら・・・・・・」

カナリアは曖昧に首を傾げた。

「・・・ここにいるのなら、それなりに実力が伴っていて欲しい。そう思うのは私の我侭なんだけど・・・・・・」

カナリアの視線が岳人をとらえる。
岳人はそれを正面から受け止めた。

「だって、ここにいるのは皆実力者ばかりでしょう?景吾君も精市君も、プロではないとはいえそれに近い実力を持ち合わせているわ。だから、私は岳人君にもそれなりの実力があって欲しい。・・・・・・その方が楽しいから」
「実力って・・・・・・そりゃ無理な話だろ」

跡部がリョーマと幸村に視線を送る。
リョーマは頷き、幸村は曖昧に笑う。
岳人はそんな3人の態度にムッとしたのか跡部に食って掛かった。

「オレだってちょっとは強くなってるんだよ!まったくかなわないみたいに言うなよ!」
「まったく敵わねぇから言ってんだよ」

跡部は近くにあった鞄の中からラケットを取り出し、カナリアに渡した。

「試してみろよ。カナ相手に2ゲーム取れたら前言は撤回してやる」
























たかが2ゲーム、いくら相手がプロだろうと非力な女子を相手に取れなかったら恥と言うものだ。
そう思って岳人がカナリアを相手に全力でゲームをした結果―――

「ゲームアンドマッチ。ウォンバイ カナリア・ローラント。ゲームカウント6−1」

現実は厳しかった。
ゲームカウントが4−1の時点で岳人のスタミナは底をつきかけ、後はもうカナリアの思うつぼだった。
予想通りといわんばかりの周りの表情が岳人の気に障る。
だが、もう言い返す気力すら残っていなかった。
・・・・・・正直、乾や海堂相手に戦っていた3年前のあの全国大会なんて、これに比べりゃまだましだ。

「岳人、お前弱すぎ」
「そう?オレの予想としてはラブゲームだと思ってたから、まだマシだと思うんだけど」

跡部の言葉を受けて、リョーマがもっと酷いことを言った。
さすがに言いすぎだろう、と幸村がリョーマをたしなめるが、その表情からすると彼もリョーマと同意見だったんだろう。

「カナ、本気出しただろ」

さくやがカナリアにタオルを渡しながら小声で言った。
その声には少し非難するような調子が含まれている。
カナリアはちょっと肩をすくめた。

「実力を知りたかったの」
「・・・・・・」
「彼は、ダメね」

カナリアは冷たい目で岳人を見た。

「体力勝負で私に負けるなんて、どうしようもないわ」
「・・・・・・おい」
「だから、暫くは私と特訓。私よりも強くなってもらわなくちゃ。・・・リョーマのためにも」

カナリアの表情が少し緩んだ。
その微笑を見てさくやは笑顔を見せた。
作り物の、笑顔を。
カナリアが『リョーマのために』と口にして冷たい眼から笑顔に戻る時、さくやは絶対に心から笑わない。
カナリアは、それを知らない。
気づかない。



違ぇだろ、カナ。
リョーマのためじゃない。
お前のためだろ。

戦うのが怖くて本気を出せないお前自身のために岳人を巻き込むんだろ。














あとがき


岳人が弱いんじゃなくカナが強いんです。
ちなみに二人とも一応ダブルス専門プレイヤーなのでこの対決に有利不利はありません。
カナは岳人を思い切り走らせ、徐々に体力を奪い、少し疲れが見えたところでわざとムーンサルトがしやすいような球を打たせて体力を奪いました。

こうして岳人は仲間になり、さくやとカナの間に小さな溝があることが発覚するのです(ヒント:反転)