UNDO 九話








「相変わらず豪快だな、麗悟」

さくやが笑いながら部屋の中に入ってきた。
彼は部屋のドアが破壊されていようとまったく構わないようだ。
続いて入ってきた男女―――橙華と桐奈も何も言わないところを見ると、どうやらこれが彼らの標準なのだろうか。
だとしたらとんでもなく迷惑だ。

「そんで、お前が景吾のチームメイト?氷帝のチビ?」
「誰がチビだ!初対面で失礼だろ、お前!」

「そうよ、さくや。あなたは少し礼儀というものを学んだほうが賢明だわ」

桐奈が言い争いをはじめそうな岳人とさくやの間に割って入った。
そのまま優雅な動作で左手を岳人に差し出す。

「ハジメマシテ、薙原桐奈と言います。ユース・セレナーデ・・・というよりは、越前リョーマの知り合いといったほうが正しいのかしら?23歳、プロテニスプレイヤーよ。よろしく」
「え?あっ・・・向日岳人です」

岳人は差し出された手を握り返す。
ひんやりとしたその手は、今までの岳人の知り合いにはあまりいない感触だった。
桐奈は岳人の様子に微笑む。

「麗悟が怖がらせてしまったようね」
「・・・・・・・・・」

怖がらせた、どころか魂抜けかけたような気がする。
どこか遠い表情の岳人を見てカナリアが笑う。

「そうよ、最初は誰でも驚くわ。私は慣れちゃったけど」
「いや、慣れるなよ」

慣れてたまるか。
カナリアにそう言ってやりたい気分で一杯なのは岳人だけでなくさくやも同じだった。

「暴力女め。オレは沙島さくや。リョーマの一つ年上。一応プロ」
「プロ?」

知らない名前だ、と岳人が首をかしげると、さくやは笑って言った。

「ま、気付かねぇのもしかたねーか。シルバーウルフって言えば分かるか?」

岳人は少し考えてから驚いたようにさくやを見た。
シルバーウルフは爽やかな笑顔、紳士的な態度のプレイヤーだが、ひとたびコートに立てば力で相手をねじ伏せるテニスをすることもある。
だが、試合後にはまた爽やかに相手と握手を交わす。
マスコミへの態度もとても良くて、始終紳士的な態度を崩さない。

それが、こんなん?

「・・・・・・」
「・・・んだよ、その顔」

嘘だ、と言いたげな表情の岳人にさくやは舌打ちをする。
せっかく人が自ら正体を明かしてやったというのに、その態度はないだろう。

「オ、オレの好きだったシルバーウルフがこんなやつ・・・・・・」
「あ、やっぱり相当ショック受けてる」

泣きながら崩れ落ちる岳人を見てリョーマは彼に同情した。
シルバーウルフにあこがれる人間は大抵、素のさくやを見て泣き崩れる。
もっとも、それもここまで性格が違っていれば仕方がないことではあるが。

「だからファンに過剰な期待を寄せられるような態度は慎めと言っているんだ」

橙華が低い声で戒めるようにさくやに言った。

「あ、えっと・・・・・・か、花月橙華・・・さん・・・?」

見覚えのあるプレイヤー。
岳人は記憶の中の彼の名を思い出しながら彼に話し掛けた。

「ああ。花月橙華だ。知っていたか」
「あ、当たり前ですよ!まだ本当の実力を出していないって言う話で、それなのに世界ランクがすっげー高くって!オレ、尊敬してます!」
「オイ、チビ。お前、オレのときと態度違いすぎねーか?」
「そりゃ、人徳だろ」

さくやのツッコミに跡部が嘲笑を浮かべた。
大体、こんなに柄の悪いやつと比べたら、橙華のほうが尊敬に値すると言うのは必然的なことだ。

「花月さんって、薙原さんと双子なんですよね!オレ、二人のダブルスがすごく好きなんです!通じ合ってて、お互いの動きを分かっているから相手がどんな球を打ってきても反応できる!強い信頼関係って、こういうのなんだって・・・・・・ダブルスプレイヤーとして、二人のダブルスはすごく勉強になる!なんか、とてもシングルスプレイヤーとは思えなくって、それで・・・・・・」
「岳人」

橙華をベタ誉めする岳人を跡部が制した。
これ以上喋られてもうるさいだけだ。

「あれ?そういえばどうして君がここに?」

幸村の疑問に岳人は視線を思い切り明後日の方向に逸らした。

「・・・・・・・・・おい、まさか・・・・・・麗悟!?」

幸村はその行動からすぐに事態を察した。
岳人がリョーマの正体に気付いたのではないか、と。

「そのまさかだ、精市。ばれたのは景吾の所為だが、街中で大声で叫ばれても面倒なので気絶させてつれてきた」
「・・・・・・麗悟、判断としては間違っていないのかもしれないけれど、それは一般的に誘拐とか拉致とかそうやって呼ばれるものだから、その辺の理解はしておいて。お願いだから・・・・・・」
「我がそこまで常識がないものに見えるのか?分かっていてやったに決まっている」
「・・・・・・・・・」
「こういう奴なんだよ、岳人」

麗悟をなんともいえない目で見る岳人に跡部は心底同情した。





「改めて、立海大の幸村精市。よろしく」
「・・・幸村、知ってたのかよ。越前のこと」

岳人は握手に応じながらも幸村を睨みつけた。
知っていて黙っていたのだとしたら相当ムカつくというか。
青学がどれだけ越前のことを心配していたのかは分かっていたはずなのに。
幸村は困ったような顔になる。

「うん・・・・・・知ったのは、ごく最近だけれどね。麗悟から聞いた」
「何で黙ってた!」
「本人から黙っているようにと言われたから」

幸村は静かに答えた。
岳人はまだ何かを言いたそうに口を開きかけたが、すぐに閉じた。
代わりにリョーマを睨みつけ、無言で自分にも話せと圧力をかける。
リョーマは少し考えた後に口を開いた。

「教えるけど、二つ約束して。
 一つはこれから知ることを、ここにいる人以外の誰にも口外しないこと。
 もう一つは、暫く―――3日ぐらいかな?ここに滞在すること。その間は疑問に思ったことを何でも聞いてくれて構わないから」
「・・・・・・・・・つまり、監禁?」
「悪く言うならそうなるかな?けど、この条件を飲むのなら、教える。全部は無理かもしれないけど、可能な限り教え・・・・・・」
「全部教えろ」

岳人はリョーマの言葉を遮った。

「そっちの出す条件は呑める限り呑む。誰にも口外しないし、3日と言わず一週間だってそれ以上だって監禁されてやる。だから全部話せ!」

岳人はリョーマに掴みかかって大声で叫んだ。

「お前がいなくなったこと、オレだって心配してたんだよ!理由は全部聞かなきゃオレが嫌だ!勝手にいなくなって、心配させて!そりゃ確かにお前が心配しろって言ったわけじゃねーよ!だからオレがすっげー勝手なこと言ってるのかもしれないけど、それはお前のことを認めたからなんだ!分かれよ、そのぐらい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スンマセン」

早口で捲くし立てられ、思わずリョーマは謝ってしまった。
そうだ、自分がどれだけ心配されていたのかに気付かなかったわけじゃないんだ。
相手が心配する理由を知りもせずにただ自分だけが自分の消えた理由を知っていればいいと思い込んで姿を消した。
それをこれだけはっきりと責められたのは初めてかもしれない。

(・・・・・・勝手なこと言ってんのは、オレか・・・・・・)

リョーマは岳人の言葉に苦笑して頷いた。

この人は、信用できる。
いや、信頼したい。



「全部、話すよ。長くなるけど、聞いて欲しい」











あとがき

作戦会議はリョーマの脳内で行われ・・・・・・嘘です、ごめんなさい。
次回、ちゃんと全員でこれからを話し合います。
上手く書けるかなー、抽象的に書かなきゃいけないからなー。