UNDO 八話
例えば目を覚ました時に身体が動かなかったとしよう。
そして目の前には木刀を持ったそっちの道の人がいたとしたら。
あ、殺されるかな・・・・・・と思うのが普通じゃなかろうか。
「気がついたのか?」
「は、はいっ!」
木刀を構えた少女―――麗悟に声をかけられ、岳人は大きな声で返事をした。
椅子に縛られているようなので背筋を伸ばすことはできなかったが。
「ふむ、なかなかいい返事だ」
「おおおおおお褒めいただき、ここここ光栄です!」
麗悟は機嫌を損ねたら殺される、とパニックになっている岳人をおかしなものでも見るような目で見た。
「ふふふ。おかしな話し方をするのね」
岳人の隣の椅子に腰掛けていたカナリアが彼の話し方を聞いて笑った。
ユースは岳人の気持ちが良く理解できるために笑うことができずにいた。
目の前に麗悟が木刀を持って立っていたら誰だってビビルだろう。
「あああああああの!そ、それよりも・・・・・・」
「ユース・セレナーデか?」
麗悟はカナリアの隣にいる彼に目をやった。
岳人も同じように彼に目をやり、小さく「いや・・・」と呟く。
ふっと麗悟の表情が緩んだ。
「ご指名だぞ、『越前リョーマ』。彼は『ユース・セレナーデ』ではなくお前と話したいらしい」
「麗悟!」
ユースが思わず叫んだ。
岳人はその反応を見てユースを思い切り睨んだ。
「やっぱりお前、越前じゃねーか!」
「・・・・・・」
「なんだよ、ユース・セレナーデって!何で偽名なんか使ってんだお前!どれだけ青学の奴らが心配してたか分かってんのか!?」
岳人は早口で捲くし立てる。
ユース、いや、リョーマはそれをうっとおしいと感じたのか岳人の口にハンカチを詰め込んで黙らせた。
「この人、このまま海に沈めていいよ、麗悟」
物騒なことを言い出すリョーマに岳人は青ざめた。
なにしろリョーマの目の前にいる女性が女性なので本気で沈められかねないと思ったのだ。
カナリアがクスクスと笑いながら岳人の口からハンカチをとった。
「大丈夫よ。麗悟ちゃんはそんなことしないし、リョーマ君も軽い冗談のつもりだから」
「・・・・・・あの目は本気だ・・・・・・」
3年前、リョーマが試合の時に見せた目。
アレが彼の本気なのだとしたら。
殺される。
「・・・なんでわかったの?」
「は?」
岳人は何のことか、とリョーマを見たが、すぐにその意味を察する。
「ああ・・・・・・お前押し倒した時、メチャクチャ似てたから」
「あのさ、せめてぶつかった時とか言ってくれない?」
「別に誤解するようなこともないと思うが、続けろ」
「そうそう、それだけじゃねーんだよ。跡部が前にケータイで『越前のこと、話したのか?』って言ってたの聞い・・・・・・」
「跡部さんかよ!!!」
リョーマは大声を出し、側にあった机を蹴りつけた。
岳人は一瞬身を竦める。
「え、越ぜ・・・?」
「絶対許さない!麗悟、カナ!跡部さん来ても部屋入れなくていいよ!空調の効いてない暑い廊下に締め出してやる!」
「陰湿だな、お前」
確かに跡部にそれはきついかもしれないとは思うが、やり方がおかしいだろう。
もっとまともな方法で怒れよ、と岳人は心底跡部に同情した。
「って、別に跡部の話聞いただけじゃ何のことかわからなかったんだよ。それに、お前があの時から全然背ェ伸びてないから・・・」
「アンタだってチビのままじゃん」
「うるさいな!一応160はあるよ!」
「オレだって155はあります!って、オレは4センチも伸びたのにアンタたったの2センチしか伸びてないんじゃん!」
「けど、まだオレのほうが背ェ高いだろ!それに学年だって上だ!敬え!」
「黙れ」
黙って聞いていた麗悟の低い声にリョーマと岳人は急に静かになった。
「年上の言うことは聞くものだな?岳人とやら。ならば黙れ。我はそんなことを訊ねた覚えはない。それにどちらも背が低いことに変わりなどない」
「「・・・ごめんなさい・・・」」
二人は同時に謝った。
麗悟の身長は自分達よりも高かったっけ、と思いながら。
「おいおい、随分と騒がしいじゃねーの?」
バラの香りと共に部屋の扉が開いた。
そこにいる人物を見つけた途端、リョーマは彼を部屋の外へと突き飛ばし、扉に鍵をかけた。
「おいっ、何しやがる!」
「自分の胸に聞いてください!」
ダンダンと扉を叩く音がするが、リョーマはその扉を押さえ、絶対に入ってこられないように必死だった。
アレで扉が壊れたらそれは誰が弁償するんだろう。
きっと跡部だろうなぁ・・・無駄に財力あるし、と岳人は思った。
「景吾。リョーマは相当ご立腹だぞ」
麗悟はおかしくてたまらないというように笑った。
だが、勿論跡部には何の事かわからない。
「麗悟!どういうことだ!」
「アンタがこの高飛びおかっぱの前で不用意な発言した所為だよ!」
「岳人か!?オレは何も言ってねーぞ!」
「だからそれを自分の胸に手を当てて聞けって言ってるんスよ!」
「思い当たることが何一つねーって言ってんだろ!」
「・・・・・・すっげー罪悪感感じるんだけど・・・・・・」
「気にするな。リョーマは大抵ああして誰かと口喧嘩をしている」
自分が言ったことが原因で跡部とリョーマの中が険悪になったらどうしよう、と考える岳人を麗悟は慰めるでもなく見た。
元々、跡部とリョーマはそれほど仲がいいというわけでもない。
というよりも、『仲間』のほとんどはリョーマを中心として集まったわけでもないために、それぞれの仲がいいというわけでもないのだ。
ただ、跡部とリョーマ、それにこの場にはいない幸村は面識があったというだけで。
それ以上の関係にはなっていなかった。
「それより・・・もう止せ、リョーマ。そんなことを言い合っている場合か」
「分かってるけど、ここで許したらつけあがるじゃん、跡部さん」
「誰がつけあがるんだと?」
ああ、そうかもしれない、と岳人はリョーマの言葉に噴出した。
結構跡部のことを分かってるよな、と思いながら。
「岳人!テメェ今笑っただろ!」
「笑ってねーよー」
「笑ってるわよ」
カナリアも面白そうに笑っている。
「リョーマ」
そんな楽しい雰囲気を破ったのは麗悟の低い声だった。
部屋の中の空気が一瞬にしてピンクから黒へと変化した気がする。
「そこを退け。退かないなら強制的に退かす」
指をバキ・・・と鳴らす麗悟にリョーマはわずかに青ざめた。
「ちょっ、まっ・・・・・・ドア壊したら誰が弁償するんだよ!」
「貴様の前の大会での賞金がまだ残っているだろう。それで問題ない」
「オレが怪我したらどうするんだよ!」
「謝る」
「あやま・・・・・・って、マジでタンマ!退くから!」
リョーマが身をかがめた直後、扉が盛大に音を立てて壊れた。
岳人とカナが思わず瞑った目をそっと開けるとそこには見事に破壊された扉とその破片、そして恐怖に震えるリョーマ。
扉の外には呆れた表情の跡部と腹を抱えて爆笑している銀髪の少年―――さくや、それにまったく同じ顔をした無表情の男女と困ったような顔で麗悟を見る幸村の姿があった。
あとがき
全員集合。
次回、この面子で作戦会議になるのかなー?