UNDO 六話










『リョーマ、左腕を使うなとあれほど言ったのを忘れたか?』
『・・・右手が使いにくいんだけど。オレ、両利きって訳じゃないし・・・・・・』
目の前の少年はそう言って渋々と箸を右手に持ち帰る。
麗悟は箸で器用に魚の骨と身を分けていく。
『左腕を使えばそれだけ回復が遅くなる』
『麗悟は両利きだからオレの苦労がわかんないんでしょ』
少年は嫌味とも本心ともつかない言葉を口にする。
『そんなことはいい。それよりも早く左腕を治すことに専念しろ。我と勝負をする約束のためではない』
『・・・っ・・・・・・』
少年の顔色が変わった。
『約束もおかずに飛び出してきた、青学の―――』
・・・・・・さい・・・・・・
『?』
少年の震えた声に麗悟は首を捻る。
そして自分が言ってはいけないことを口にしたことを遅れて理解した。
『・・・リョーマ・・・・・・』
『うるさいっ!』
少年は箸を投げつけ、立ち上がった。
『麗悟に何がわかるんだよ!オレは利き腕が使えないし自由にテニスも出来ない!そんな状態で好きな人と打ち合うことも出来ない!自分の身体なのに思い通りにならないなんてっ、麗悟に理解できる訳ない!』
少年は泣いていた。

『青学に戻りたい!だけど戻れない!戻っちゃいけないんだ!麗悟にオレの気持ちなんてわからないくせに、勝手なことを言うな!』














「・・・・・・夢・・・・・・」

ユース・セレナーデはホテルの一室で目を覚ました。
既に日は高く上り、普通の人間ならばもう昼食を食べようとしているぐらいだろう。
ユースは欠伸をするとベッドから出る。

「ユース!起きたのね?おはよう」

浴室からひょっこりと顔を出したのはカナリアだった。
ユースは寝ぼけ眼で頷く。

「おはよ・・・・・・って、カナ!?」

そして一気に目がさめた。
バスローブすら身につけることなく顔を覗かせるカナリアは、ユースにとって刺激的すぎた。
しかも、起き抜けに。

「なっ・・・・・・ちょっ、頼むから何か着て!」
「?」
「こんなトコ、さくやに見られたら・・・・・・ッ!」

誤解ではすまないだろう。
もしかしたら本気で窓から突き落とされかねない。
ちなみにここはホテルの25階。
落ちたらよっぽどの強運の持ち主でない限りどう頑張っても助からない。
カナリアは笑って浴室へ引っ込んだ。

「・・・・・・西洋人、もうちょっと恥らい持ってよ・・・・・・」

西洋人が皆そうとは言い切れないが、カナリアはユースの知る中でも特に恥じらいがない。
そういったところが幼さを感じさせ、また、さくや曰く『悪い虫』がつく原因でもあるのだが。
そういえばそのさくやの姿が何処にも見えない。

「カナ、さくやは?」
「ちょっと遊びに行ってくるって。ほら、昨日ゲームセンターに立ち寄った時に面白そうなゲームがあるって言ってたじゃない?」
「そうだっけ・・・・・・橙華と桐奈は?」
「お買い物ですって。麗悟ちゃんはお散歩に行くって言っていたわ」

カナは髪を拭きながら浴室から出てきた。

「今日は私とユース、二人きりね」
「跡部さんと幸村さんは?」
「あら、二人は学校よ。部活があるって行っちゃった」
「ふぅん。じゃあ、本当にカナと二人きりなんだ」

悪いことではないのだが、カナと二人だけで一緒にいると非常に疲れる。
天然で、しかも日本と言う国に非常に興味を持っている彼女は外に出れば普通の人が3時間かけてショッピングするところを丸一日かける。
しかもそれだけの時間がたっていることに気付かない。
食事をすれば日本食の素晴らしさについて感想を延々と述べる。
(カナリアは外食は高級料亭に限るので味の素晴らしさだけでなく見た目なども彼女によって採点される)
よくさくやは彼女に付き合っていられるな、と思うほどだ。
本人に悪気が欠片もないだけにとても性質が悪い。

大人しく部屋で本でも読んでいてくれないかとユースは思った。
だがいつだって期待は悪い方へと裏切られるものだ。

「ユース、一緒にお買い物行かない?」

それ見たことか。
ここで迂闊に頷けば後悔する。
その確率は乾先輩の眼鏡の逆光率と同じだとユースは知っている。
黙ったままのユースにカナリアは笑いかけた。

「丁度日本に橙華君と桐奈ちゃんのブランドが支店を出したのよね。そこに行って、それからラケットのガットが緩くなっちゃったからそれも直して・・・・・・それにユースもグリップが合ってないって言ってたじゃない?直して、その後でちょっと打っていきましょうよ」
「・・・・・・・・・」

確かにラケットを直すのはやっておきたいことだ。
カナリアと打ち合うのも嫌いではない。
だがカナリアと共に買い物、と言う苦労を考えた場合、安易に頷いてはいけない。

「お願い、ユース。お金は私が出すから、ね?そうだ、カルピンのおやつも買っていきましょう?」

そこまで言われては断ることも出来ない。
ユースのベッドではヒマラヤンの猫がぐっすりと眠っている。
猫―――カルピンにあげるおやつもそういえば少なくなっていたな、とユースは思い出した。















「何故・・・先輩が彼を知っているのです・・・・・・?」

手塚はわずかに声を震わせた。
麗悟が彼を知るはずはないのだ。
卒業してからほとんど青学を尋ねて来ることなく、試合もあまり見に来なかった麗悟が越前リョーマを知っているはずなんてない。
麗悟はなんでもないことのように言った。

「当時、青学が全国制覇を果たしたと言うのは大変な名誉だった。我は後になってそのことを調べ、大変興味深い選手を見つけた。是非会ってみたいと思ったのだが・・・・・・この場におらぬと言うことは、テニスを止めたか?」

全員が沈黙した。
ややあって、菊丸が拗ねたような声を出した。

「だって、おチビ、突然いなくなっちゃったんだよ・・・・・・桃と薫ちゃんが高校来て、中学引っ張ってくのはおチビの学年になったってのに、3年生になった途端にいなくなっちゃって・・・・・・」
「そのまま行方知れず・・・」

不二が続けた。
麗悟は二人を見ていた。
その視線が彼らの言葉に偽りがないかどうかを確かめているものだと言うことに気付いたものはいなかった。

「そうか・・・・・・いや、しかし彼ほどの実力者ならば世界にいてもおかしくはないだろうな」

麗悟の言葉に乾が首を振った。

「越前のデータと類似するデータを持つ選手は何人かいます。ですが、小さなクセが一致する選手はいません」
「成る程」

麗悟はかすかに笑った。

「面白い。我が見つけてやろうか?その越前リョーマを」
「・・・・・・・・・権力使って、と言うのならやめてください」

裏社会に生きる麗悟が一片の権力も使わずにリョーマを見つけようとするだろうか。
いや、しない(反語)。
乾は思わず土下座をする覚悟で頼んだ。

「要するに、越前リョーマのような選手を見つけてこればいいのだろう?なに、ラーク・エンプティであれば容易いことだ。世界の選手を知っているからな」

麗悟は不敵に笑った。

















あとがき

大食いランキング
カナリア>>(超えられない壁)>>さくや≧麗悟>ユース(リョーマ)>橙華>桐奈
自分は小食だと言い張る人ランキング
カナリア>ユース(リョーマ)>麗悟>双子>さくや
自覚症状がないって怖い。こういう人と一緒に食事すると、なんだか注文しすぎても大丈夫なように思えます。

麗悟の言葉には二箇所だけ、とても気を使わせていただきました。