UNDO 五話
「東日本選抜合宿?」
手塚から渡された用紙を見て、青学のレギュラーたちは声をあげた。
「近々、高校生テニスプレイヤーの世界大会が行われることとなったのは知っているな?日本の代表選手を決めるのにまずは幾つかの地域に分かれ、そこから実力者のみを選んで全国合宿を行うことになった。そのため、我々はそこに書いてある通りに合宿を行う。今回はレギュラーメンバー、マネージャー全員参加だ」
レギュラーメンバー。
青学の場合は、補欠のメンバーも含めて、と言うことだ。
ということは、現レギュラーの手塚、大石、菊丸、乾、桃城、海堂、裕太、神尾に加えて河村、それにマネージャーの観月と不二も入ることになる。
「それと、今回は特例というか・・・・・・女子テニス部からも2人、参加してもらう。竜崎、それに橘だ」
橘、と名前を聞いた途端に神尾の顔がぱあっと明るくなった。
わかりやすいヤツだ、と観月は彼を生暖かい目で見た。
「参加校は立海大付属、氷帝学園、山吹、それに公立校から選ばれたものが数名。日程は3日後から1週間の予定だ。コーチ陣も特別講師が来てくれる事になっている。何か質問がある者?」
「どうして女子が一緒なんですか?」
裕太が腑に落ちないといった調子で尋ねた。
「主催者側の意向だそうだ。オレはそれ以上のことは聞いていない」
「主催者側って?」
不二が裕太のあとをついで尋ねた。
「世界的に有名なブランドメーカー、GOLDEN MOON社だ」
「ゴールデンムーンが?」
「3社が主催するもので、GOLDEN MOON社が中心となっている。実力のあるものであれば、男女ともに選抜合宿に出て欲しいといっていた」
「3社って事は残りの2社は・・・・・・」
「SILVER SUN社とローラント財閥が関わっている確立99%・・・・・・」
乾の挙げた名前に手塚は頷いた。
GOLDEN MOON、SILVER SUNの二社は元々一つの会社だった。
子会社としてSILVER SUNがつくられてからはGOLDEN MOONの副社長が取り仕切っているという話だ。
ローラント財閥はGOLDEN MOONと懇意であるため、何かしらの企画には大抵関わっている。
「ローラント財閥か・・・・・・そういえばカナリアさんってローラント財閥の関係者かな?」
不二はカナリアの姓がローラントだったことを思い出した。
「さぁ・・・・・・なんとも言えませんね。彼女についてはあまりデータがないんですよ」
「カナリアについて、と言うよりもプロ選手の、一部に関してはまったくデータがえられないな」
乾もノートをひろげた。
「花月橙華、薙原桐奈両名はGOLDEN MOON、SILVER SUN社のトップだと言うことは分かっている。二人とも世界のトッププロとして名高い。だが、彼らの経歴については一切不明だ。トッププロで経歴がわかっていないのは・・・・・・」
「二人以外にも・・・・・・たしか、ラーク・エンプティと・・・」
「シルバーウルフ、ユース・セレナーデ。ラークと名乗るものはそれが偽名か本名かもわからない。シルバーウルフは日本人だと言う噂を聞いたことがあるが、それ以上はわからない」
「ラーク・エンプティは偽名だ。彼女は日本人で5年前に青春学園中等部を卒業、2年前に高校を卒業した。現在はお前達のすぐ後ろに立っている」
突然聞こえた声に全員が振り向いた。
サングラスをかけた女性がそこに立っていた。
「ラーク・エンプティこと雲雀麗悟だ。久しいな、チビ助達?」
「レイ先輩!」
「げっ、雲雀先輩・・・・・・」
「・・・・・・誰ですか?」
3種類の声が見事に重なった。
嬉しそうな声は菊丸と不二。
麗悟のことを知らないのは観月。
他の者はすべて嫌そうな声を出した。
それを聞き逃すほど麗悟の耳は悪くない。
「随分と我に会えて嬉しいようだな?再会ついでにぶっ飛ばしてやろうか?」
「レイ先パーイ!」
菊丸が抱きついてくるのを軽く交わし、麗悟は一番近くに立っていた桃城の手首を掴んだ。
「観月、彼女が先日君にデータを紹介した女性だ」
桃城が投げ飛ばされる横で乾が説明した。
ほんの少しずつ麗悟から距離をとっている。
「はぁ・・・・・・」
なんと言ったらいいものか、観月はなんともいえない目で彼女を見ていた。
「で、レイ先輩がラーク・エンプティってマジ?」
菊丸が興味深そうに麗悟に抱きついて言った。
猫の耳と尻尾がついているように見えるのは何故だろう。
部室に用意された椅子に座った麗悟は左手で菊丸を引き剥がそうと試みる。
「ああ。知人との約束で誰にも正体を明かさないはずだったのだが、事情が変わってな」
世界ランク30位以内にはいるほどの腕前、と乾は彼女のことを紹介した。
だが、彼女がラークだとすれば世界ランク24位、ということになる。
30位以内にはいるほど、ではなく、既に30位以内になっていたのだ。
「知人って誰?オレ達の知ってる人?」
「・・・・・・・・・知っている者もいれば知らない者もいる。そうだな、精市と景吾は分かるだろう?」
「幸村と跡部か?」
「そうだ」
左手だけで麗悟は器用に菊丸を引き剥がした。
「精市は最近付き合い始めたのだが、景吾は昔からの馴染みでな」
「馴染み・・・・・・レイ先輩がいうと、カタギに聞こえないなぁ・・・・・・」
不二がやや引き攣った声で言った。
「どういうことです?」
不二の言葉の意味を訊ねた神尾は、不二の回答に固まった。
「うーん、レイ先輩の実家って・・・・・・組、なんだよね」
「・・・・・・・・・は?」
「だからレイ先輩の実家は組、レイ先輩は次期組長候補」
「周助、それは違う。もう跡を継いだ」
「えぇーっ、じゃ、レイ先輩、今組長!?」
「ああ」
なんだかとんでもないことを聞いてしまったような。
大半のものはそんな顔をしていた。
「それより、我はそのようなことを言いに来たわけではない。少しお前達に聞きたいことがあってな」
麗悟はなおも抱きついてくる菊丸の首根っこを持ち、桃城のほうへ思い切り投げた。
「にゃっ!」
「国光、貴様に・・・・・・」
言いかけた麗悟は突然言葉を切り、ズボンのポケットに手を入れた。
「雲雀先輩?」
どうしたのか、と手塚が声をかけるが、麗悟は部室の扉を睨みつけ、手塚の言葉を無視した。
「ここへは来るなと言ったろうが。厄介事を持ち込む前に自らの責任で何とかしろと言っているのが貴様等の頭には伝わらなかったのか?」
部室の扉の向こうからぼそぼそと呟くような声がしたかと思うと麗悟は思い切り扉を蹴りつけた。
扉は音を立て、蝶番を外して吹っ飛んだ。
「ひ、雲雀先輩!」
「レイ先輩!」
部室を壊すな、と言いたくても言えない。
手塚と菊丸が叫ぶ後ろで不二と大石が大きく溜息をついた。
乾が相変わらずいい蹴りだ、と呟く。
「私を舐めるなよ?貴様程度の小者が生きていられるのは私の組が後ろ盾としてあることを理解していないほど頭が狂っているわけではなかろうに。そんなにコンクリ抱いて東京湾沈めて欲しければいつでもやってやるぞ?ん?」
麗悟は小型の折畳式ナイフををちらつかせ、目の前の男を脅す。
男は一目見てその道とわかるほどの者なのに、麗悟の迫力に完全に負けている。
「落とし前は自分でつけろ。私は貴様等の尻拭いのために組をまとめているわけではない。分かったらとっとと失せろ!」
男は麗悟の一喝で逃げるようにしてその場を去った。
麗悟はそれを見送るとナイフをしまった。
「・・・・・・さて、話を戻そう」
「・・・・・・」
「何も言わないほうがいいぞ、桃城、神尾」
口を開きかけた二人に乾が忠告した。
曰く、今の状態の麗悟の話を遮れば容赦されない。
二人は無言で頷いた。
「国光。我は人を探しているのだが」
「人探し、ですか?」
「ああ。3年前、中等部を全国優勝へと導いたスーパールーキー・・・・・・」
手塚の、いや、部室に居る全員の顔色が変わった。
麗悟は気にとめない風に言葉を続けた。
「皇帝と呼ばれた真田をも倒した実力者。名をなんと言った?確か、越前―――」
越前、リョーマ――――――
あとがき
麗悟は全部知った上でこんな台詞を吐けます。ハッタリの得意な子です。
とは言っても、さくや以外の周りがハッタリ大得意な人ばかりだからそれほどハッタリが上手いとは思えない。