UNDO 三話






「カナ、まさか変な男共に言い寄られてんじゃねーだろーな?」

銀髪を頭上でまとめてサングラスをしている男だ。
皮のジャケットを着ていて、例えるなら暴走族のような格好をしている。
砕けた日本語を話す彼にカナリアは心底驚いたような顔をしていた。

「え・・・? な、なんでここにいるの・・・?」
「カナのことが心配で日本から飛んできたに決まってんだろ?
 ・・・・・・ま、飛んできたって言ってもアイツに無理言って飛行機飛ばさせたんだけどよ」

男がサングラスを取った。
野生の狼のような鋭い目をしている。

「オレの勘はよく当たるんだよ。
 今回も、カナが男に言い寄られてるところを察知したわけだしなぁ?」

男の目が不二と観月に向けられる。

「お前等、カナに近寄った代償は高いぜ・・・・・・」
「えーっと・・・・・・悪いけど、言ってる意味がよく・・・・・・」
「というかおそらくあなたの勘違いです」

困った顔の不二に観月がきっぱりと後を引き継いで言ったが男は納得した様子を見せない。

「オレの女に手ぇ出そうとしてしらばっくれてんじゃねーぞ」
「だからあなたの勘違いです、それは」

段々この男と話をしているのもバカらしくなってきた観月が少し強気な声で言った。
男は気付かず、観月に詰め寄り――――――

殴られた。
後ろに立った別の男にがつんと。

「観月に不二じゃねえか。何してやがる、こんなところで」

その不機嫌な声は跡部だった。
男は頭を抑えてその場にうずくまっている。

「跡部君?」
「中国にいるんじゃなかったの?」
「どっかのバカがカナリアが心配だからアメリカまで乗せていけってうるさかったんだ。
 中国での仕事は終わらせてある」
「あら・・・・・・ごめんなさいね、景吾君」

カナリアがすまなさそうな顔をして跡部に謝った。

「オレも用があったからな。ついでだよ。それにカナが謝ることじゃねーだろ」

跡部は怒ったように銀髪の男を見た。

「跡部君、彼と知り合いですか?」
「ああ。昔からのダチだ」

観月の問いに跡部が短く答えると、男が跡部を睨みつけた。

「ダチィ?オレとテメエが?笑わせんなよ、景吾!」
「フン、それなら訂正するぜ。オレの昔からの奴隷だ」
「二人とも、やめてよ!」

カナリアが怒ったような声を出した。

「景吾君もさくや君も、お友達でしょう? 改めて、紹介するわ。
 こちら、私と景吾君のお友達の沙島さくや君。あなたたちと同じ日本人よ」

カナリアは笑顔でさくやを二人に紹介した。
その笑顔を見て、カナリアはやはり美人だと不二は思った。

「オレはこんな奴とダチなんかじゃ・・・・・・」
「・・・・・・さくや君・・・・・・どうしてそんな事言うの・・・・・・?」

怒ったさくやが声を張り上げるが、カナリアは今度は泣きそうな目で彼を見た。
それを見てさくやはうっ、と黙ってしまう。
跡部が笑いをこらえるように口元に手を当てた。

「・・・・・・さくや君は、皆さんとお友達でしょう?それとも、私がそう思っているだけだったの?本当は景吾君とオトモダチじゃないって・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ああ、悪かったよ、カナ。んな顔すんなって」

さくやは溜息をついて謝った。

「オレと景吾はダチ、んでもって、コイツらはカナに言い寄ってたわけじゃなくて単に話をしていただけだと。そんでいいのか?」
「・・・そう、そうよ・・・・・・」

カナリアが半分泣いている顔で頷いた。

「それよりカナ。ユースの試合終わるまでに戻らねーとまずいだろ」

跡部が意味深にカナリアを見た。
カナリアはそれに気付き、小走りにその場から去っていった。

「・・・・・・で、何でここに・・・・・・」
「留学中なんだ」

不二が答えると跡部は納得したようだった。

「もうすぐ日本に帰るんだけどね。裕太や手塚は元気?」
「何でオレにきくんだ?」
「裕太君からの手紙に手塚君と跡部君を褒め称える言葉が必ずといっていいほど書かれていますから」
「ああ・・・・・・元気と言えば元気だが、一番のライバルがいない所為でつまらなさそうではあるな」

跡部は裕太の様子を思い出しながらそう答えた。
実際、跡部が最後に裕太に会ったのはもう一月近く前のことなので正確なことは知らない。

「そうですね・・・・・・裕太君の一番のライバルである越前君は消息がようとして知れず、目標であるお兄さんはアメリカにいるとなれば、つまらないと言っても当たり前かもしれません」

観月が言ってから不二の方を見た。
不二は越前と言う名前にわずかに反応したようだったが、軽く溜息をついただけだった。

「・・・・・・本当に、どこへいってしまったんだろうね・・・・・・」

あの生意気な青学ルーキーは中学3年になろうとした矢先、姿を消した。
それから誰がどんな手を使っても見つけ出せなかったのだ。
乾と柳のデータでさえ、リョーマを見つけることは不可能だった。

「リョーマ・越前ってーと、確か景吾も認めたチビスケのことだろ?前にいたく気にいったって話してたじゃんか、景吾」
「気に入ったと言ったかどうかは忘れたな」
「はん、景吾が話すのはいつだって認めた奴のことだけだ。橙華然り、桐奈然り、麗悟だってな」
「麗悟・・・・・・?」

不二がふとその名前に反応した。
どこかで聞いた覚えのある名前だ。

「ああ、お前は知ってるかも知れねーな。麗悟は青学にいた事あるって言ってたぜ」

さくやが思い出したように言った。
それで不二は思い出した。
自分達がテニス部に入った直後だったか、あの大和部長と付き合っているという噂のあった雲雀麗悟のことを。
今にして思えば彼女は確かによくテニス部に顔を出しては大和と打ち合いをしていたようだった。
その内容はお世辞にも強いとはいえなかったような気がする。
不二の記憶が確かならばテニス部の誰よりもノーコンで、誰よりもパワーで押すテニスが得意で、よく周りの見学者をボールでノックアウトしていた。

「・・・・・・雲雀先輩のこと、認めてるの・・・・・・?」

冗談だろうと言うように不二は聞いた。
跡部は笑いをこらえるようにうつむいて答えなかった。

「・・・・・・あの人は、テニスのようでいてまったく違う競技をしているようだったんだけど・・・・・・」
「ああ・・・・・・そうだな、確かに麗悟はテニスと言うよりは人をぶっ飛ばす方が得意そうなプレイスタイルではある」
「というと、桃城君辺りとならいい勝負ができるんでしょうか?」

観月は考え込むように言ったが、不二はそれを否定した。
言ってはなんだが、そんなことを言ったら桃城に失礼だ。



やがてユースの試合が終わった。
跡部とさくやはカナリアに会ってくるからと言って不二たちと別れた。





この時に不二と観月は気付くべきだった。
不二のことを知らなかったさくやが何故不二を青学の生徒だと断定していたのかと言うことに。

何故、その不二は青学の生徒というさくやの認識の中に観月も同じ青学の生徒ではないかという疑惑すら見られなかったということに。











あとがき

さくやとカナ、どちらも重要なことをぺらぺら喋りすぎですね。気付かない彼らもどうかと思いますが。
麗悟の悪評どこまでも。彼女は初対面で菊丸の顔面に波動球並の威力でボールをぶつけたことのあるつわものです。菊ちゃんはあの学年での被害者第二号です。一号は手塚。(すべて裏設定)
べつにさくやは元ヤンとかそう言ったものではなく、単にそういう格好が好きなのです。