過去の日記を読み返してふと気付いたことがある。
そういえば、彼と親しくなってからもうすぐ1年だ。
Memorial day
よく晴れた土曜日の昼下がり。
静かな雰囲気の小さな喫茶店で宍戸は楠田を待っていた。
土曜日は仕事が半日で終わるから、という楠田と会う約束を取り付けたのは昨日のことだ。
突然会いたいなんて言って、もしかしたら断られるかもと思っていた。
大丈夫だよ、と言ってもらえて本当によかった。
10分ほどで楠田は現れた。
「待たせたかな?」
「いや、オレも今来たところです」
楠田は笑って店員にコーヒーを注文する。
「それで……急にどうしたんだい?いきなり僕を呼ぶのって珍しいね」
「そうですか?なんか、いっつもいきなり呼んだり呼ばれたりって感じですけど・・・・・・」
そんな話をするために呼んだわけではないので正直どうでもいいのだが。
だが、宍戸はこうして他愛のない会話をするだけでも楽しい。
「あの、楠田さん・・・」
「なんだい?」
「今日・・・・・・何の日か、覚えてますか・・・・・・?」
言った後で宍戸は一気に頬を染める。
もう少し何か言い方があるだろう。
「今日、こういう日なんですよ」とか笑いながら「今日、何の日かわかる?」とか。
それを何故こんな、別れ際の泣きそうになって必死に涙を堪える女のような口調で問い掛けるんだ、オレは!
だが、そんな宍戸の気持ちを知ってか知らずか楠田は真面目に何の日だったか、と考え始めた。
「今日・・・は・・・・・・夏休みの、土曜日?」
「い、いや・・・あの・・・・・・ベ、別に、覚えてなきゃいけないって訳じゃないんで、無理に理由つけてくれなくてもいいんですけど・・・」
「そう?・・・・・・ごめん、やっぱり分からないや」
楠田がそういうのと同時に宍戸の後ろに座っていた女子中学生が大きな笑い声を上げた。
振り向いてみれば女子中学生と向かい合って座っている男(彼氏だろうか)が彼女の口を慌てて塞いでいる。
自分達のことを笑っているのではないのだろうと思っていても少し不愉快な気分になる。
「・・・・・・実は、今日・・・・・・オレが・・・オレ達がこういう風に親しくなって1年なんです」
「はぁーっ、マジで!?」
後ろの女子中学生の声がうるさいが、もう気にしないことに決めた。
どうやら楠田も気にしていないようだし。
というか、自分は何を言っているのだろう。
付き合ってるわけでもないのに、親しくなって1年というだけで。
そういうのは、もっとこう、恋人のような雰囲気の二人がやるんじゃないだろうか。
宍戸はまた少し赤くなって俯いた。
最初に楠田と知り合ったとき、宍戸は絶対に話が合わないと思った。
会ったのは、去年の関東大会前だった。
偶然に大会を見に来た楠田と会ったのだ。
紹介したのは・・・・・・多分、平部員の誰かだったような気がする。
あの頃の自分はまだ髪を長く伸ばし、他人を見下しているようなところがあった。
見下している、と言うよりは大して強くもない奴等、と見ていたといったほうが正しいだろう。
仲のいい奴といえば、強いて言うのなら跡部ぐらいだったか?
鳳はいい奴ではあったけれど話し掛けられても生返事だけで済ませていたし、他のレギュラーたちとつるむこともほとんどない。
同じ学校のレギュラーでさえそうだったのだから楠田と会った時も第一印象は「間違っても仲良くなれそうにはないタイプ」だった。
それが関東大会が終わった直後。
偶然自分の試合を見ていた楠田に声をかけられたのだ。
「君のライジング、見ていてすごかったよ」と。
あまりライジングを使う奴を見かけなかったので彼が珍しかったというのもあった。
だが、話をしていくうちに宍戸は楠田への第一印象が間違いだったと思わざるをえなかった。
今まで敬遠して話していなかった彼は、意外と話の合う人だった。
プレイスタイルについての話から学校でのこと、日常生活についての話まで楠田は話していて飽きない人だった。
女が集まってくだらない話をしている心境がわかるような気がした。
きっと他人からすればくだらない話でも、本人達はとても楽しいんだろう。
親友、と言う言葉の意味を実感していた。
それに楠田は宍戸よりも大分年上だったから(そうして付き合い始めて一月以上も知らずにいた)人生相談とやらもした。
中間テストがやばいとか、友人関係とか。
それでも、普通男同士でこんなこと言わないよなぁ・・・・・・と思いつつ、宍戸はこうして楠田と会えた日を記念にしたかった。
なんというか、鳳や岳人と違って、楠田といる時間は特別なのだ。
友人以上の友人、親友レベルに近い友情。
(もしかして、そんなこと思ってるのって・・・オレだけ・・・か・・・・・・?)
楠田が何も言わないのは、そういう風に考えている宍戸のことをおかしいと思ったからかもしれない。
そうだったらどうしよう・・・
柄にもなく、宍戸は心配になってきた。
「・・・ありがとう」
「・・・・・・え・・・・・・?」
宍戸が顔を上げると楠田は予想に反して微笑んでいた。
「宍戸君が僕のことをそうやって考えてくれていたことがすごく嬉しい」
「・・・・・・本当・・・・・・に・・・・・・?」
「うん。僕も宍戸君とは特別に親しかったからね。こういう日を宍戸君が覚えていてくれたことはすごく嬉しいよ」
「・・・・・・砂吐きそう・・・・・・」
宍戸の後ろのテーブルで中学生が笑いを堪えてそう言った。
先ほどから宍戸と楠田の様子が面白くて仕方ないのだ。
「すっげーラブラブじゃね?」
『せやな・・・・・・これは跡部達にも報告せんとあかんな』
向かいに座っている男は苦笑しながらメモにそう書いてよこした。
気付いているかもしれないが、男は忍足、そして宍戸が女子中学生と思ったのは岳人だ。
宍戸の様子がおかしいという鳳の訴えを受け(あれはほとんど強制だったが)、二人は宍戸を尾行していたのである。
そして結果が―――――男とのラブラブ(死語)一歩手前現場。
「じゃ、早速・・・滝ちゃんとジローと跡部に報告♪っと」
「そこは先ず鳳に報告すべきところやろ」
そういう忍足も携帯に表示されるアドレスは樺地と日吉。
この二人、最初から鳳に報告する気などさらさらなかった。
「っと・・・・・・そ、それで特に何かしようってんじゃなく・・・・・・」
宍戸は赤い顔のままで早口に喋っていた。
正直、こうした反応をされると、どんな顔をしていいのか分からない。
「・・・・・・今度、また青学と対戦するんです」
「青春学園と?」
「はい。オレはまた、ダブルス1で出る予定です。それで・・・・・・」
宍戸はまっすぐに楠田の目を見た。
「・・・応援に・・・・・・来てくれませんか・・・・・・?」
もう顔は赤くなかった。
ただ、自分の全力のプレイをこの人にも見て欲しい。
それだけだった。
楠田はすぐに頷いた。
「勿論だよ、宍戸君」
オチ
「で?」
翌日、部室に入った途端に岳人とジローから満面の笑顔で迎えられ、宍戸はこめかみを引き攣らせた。
岳人は宍戸の肩をバシバシと叩く。
「いやぁ、青春だねぇ、宍戸君!」
「何が」
「聞いたよ、男の人に告白したんだって?カッコE!」
誰だ、その面白おかしく間違って歪められたニュースソースは。
ふと宍戸は喫茶店で自分の後ろに座っていた女子中学生を思い出す。
そうだ、スカートをはいていて眼鏡をかけていたから気付かなかったんだ。
あれ、岳人に似てなかったか・・・・・・?
更に言うなら、一緒に座っていた奴は水泳の授業でのみ見かける顔だった気がする。
要するに、眼鏡をかけていない忍足。
「おい、岳人。忍足。お前ら、昨日の午後何処にいた?」
「何処って動物園」
「遊園地」
「水族館行ってたんだよねー。羨まC!」
忍足、岳人、ジローと3人とも違う答え。
確定。
その日、氷帝学園男子テニス部部室に宍戸の雷が落ちた。
川島さんとの友情1周年記念!
えっと、ちゃんと楠宍になって・・・る・・・?
つか、星夜はこれが限界です・・・・・・
川島さんのみお持ち帰り可です。