また、全国への道を目指せる事が嬉しかった。
本当に、嬉しかったんだ。

だけど・・・。
それには侑士もいなくちゃ。
隣に居るのが当たり前だったから、今の状況がよく理解できなかった。





『ダブルス』





「忍足がS3!?」
宍戸が跡部に突っかかるように前に出た。
今すぐにでも胸元を掴んで、喧嘩が始まりそうな様だ。
「待てよ、忍足は向日とダブルスじゃねえのかよ!」
別に選手オーダーを跡部が全面的に決定させた訳ではないにしろ、跡部が言った事は信じられない事であった。
忍足をS3にするとは、要するところ向日とはダブルスを組まないという事だ。
「桃城・菊丸ペアに次こそ勝つってたじゃねえか、あいつら」
「宍戸さん、跡部さんを責めるのは間違っています」
隣を随時キープしている鳳は、柔らかく制止をかける。
「うるせー、分かってる。長太郎、お前は黙ってろ」
強くは出られないのだろう。
少しばかし口調が和らいだ。
鳳は微笑を浮かべ、
「はい」
とだけ言う。
宍戸は一息つくと、もう一度跡部を見た。
「俺は別に責めてなんかいない。ただ、何で忍足がダブルスじゃなくて、シングルなのかって事だ。当人たち は納得してんのかよ」
跡部は上から見下ろす姿勢は崩さずに、忍足に尋ねた。
「おい、忍足。構わないよな」
「ああ、かまへんで」
あっさりと答える忍足に、跡部はまだ文句あんのか?と言いたげな視線を寄越した。
「向日、テメエはどうなんだよ!忍足がシングルスでもいいのかよ!」
ダブルスと言うのだから、忍足一人の問題じゃない。
向日の意見を聞かないなんて有り得ない。
宍戸の質問に、後の方にいた向日は、一瞬忍足を見た。
真摯な瞳をそのまま前に向けている。
前へ進もうとしている男を、自らの我が侭で今の時点に縫いつかせるような事はしたくない。
向日は笑顔を作った。
「いいんじゃねえ!!侑士やったじゃねえか!S3って、青学どいつ持ってくんかな。また桃城だといいな。 この前のお返ししなきゃな」
ケラケラと笑う顔に、薄っすらと哀しみが滲んでいたのを、感じ取るのは困難だった。

いいんだ。
一緒にはコートに立てないけど、それだけがダブルスじゃない。
応援しなくちゃいけねえよな。
侑士、今度こそは勝たなくちゃ。
榊監督に今度の大会も出させてもらえるという事が、どんなに凄い事なのか。
今、こうして皆と試合のオーダーを聞けるという事が。

「向日・・・」
宍戸が向日の肩に触れようとした。
「なあなあ、それよりさ、俺はダブルスだろ?誰と誰と?」
気付かれないように、静かに体をずらした。
今、触れられたら、優しくされたら・・・。
言ってしまうと思った。
(嫌だ・・・)
(一緒に、ダブルスを組みたい・・・)と。
やはり我が侭だと思うその一言を、どうして言えようか。
向日は、跡部の言葉を待った。
多分自分はダブル要員だろう。
お世辞にもシングルス向きとは言えない。
「向日は、日吉とD2だ」
事務的に告げる跡部の言葉を、片耳で捕らえ、もう一方の耳から出した。
日吉・・・か。
別に嫌だという訳ではない。
前回の青学戦、否それ以前の準レギュの練習風景を見ていて凄い奴だとは思っていた。
そんな奴とダブルスを組めるのは、少しばかし期待するものであった。
しかし、それでも心の片隅では侑士とダブルスをしたいと、思う感情が渦巻いていた。



その後、淡々と跡部の口からオーダーが下された。





「向日、ちょっと」
宍戸に呼ばれ、向日はひょいひょいと付いて行った。
部室を出て、昇降口に向かう道のり。
細い樹が立っていた。
「お前、マジであんなんでいいのかよ」
宍戸はまだ先ほどのオーダーの事を気にしていたみたいだ。
「しょうがなくね?あのオーダー監督が一応決めたもんだろ。俺たちがどうこう言える事じゃねえよ」
「だけどよ」
「もういいんだ。つか、侑士にはシングルスで勝って欲しいしよ」
宍戸は眉間に皺を寄せると小さく溜息を付いた。
別に自分の事ではない。
なのに、何故そんなに向日の事を?
「俺は、忍足と向日のダブルスが、見たかったけどな」
ボソリと呟かれた言葉に、向日は何も答えなかった。
「悪いな、引き留めてよ」
遠くの方で宍戸を呼ぶ鳳の声が聞こえた。
「じゃあな」
肩を軽く叩かれ、去って行く。

「謝るのは俺の方だよ、宍戸」
ふっと苦笑いを浮かべ、宍戸の背を見つめた。
素直に心情を吐けなかった。
宍戸まで困らせる気はないのだ。
勿論、侑士にもだ。
ただ、自分の心の中で仕舞いこんでしまえば。
誰にも見つけられずに、ひっそりと隠れ続ければいいな、と思ってしまう。



「岳人ー」
駐輪場で自転車を動かしている最中に後から呼ばれた。
「侑士・・・」
「置いてくなんて水臭いねん。焦ったやんけ、着替え終えたら誰もおらへんやから」
「ごめん。なんか監督と話してるから邪魔かと思って」
「そないなことあらへんって」
忍足は普段と変わらぬ顔で笑っている。
「なあ、侑士?」
「うん?」
「S3頑張ってな」
「当たり前や」
心から笑う忍足の表情を、向日は真正面から受け止めた。



夏の夕日は未だ明るく。
太陽のような色だった。

「俺も頑張ろうっと」
えへへと笑うと、忍足は向日の頭を撫でた。
「互いに頑張ろな」

ダブルスを、一緒に組めなくても。
だけど、今この瞬間は一緒に居たい。
ダブルスとしてではないけれど・・・。





悔いの残らぬ試合をするために。
心の底から頑張ろう。



また、ダブルスを組む日まで。





【END】





コメント

わーい、川島さんからの贈り物ーv
がっくん可愛いよがっくん!ほのぼのいいなーv
素敵な贈り物をありがとう!