三つ編みで遊べ









「レイ、折り入って頼みがある」

目の前で土下座をする同僚。
その真剣な目つきに何事かと思えば、彼はとても落ち着いた声でこう言った。

「三つ編みさせてくれ」




「前から思ってたんだけど、あんたバカでしょ」

ルナマリアはシンの額に包帯を巻きながら呆れた口調で言った。
シンは心外だとばかりにルナマリアを睨みつけた。

「だって、レイの髪ってすっごく綺麗だから・・・・・・顔も女の子みたいだし、きっと三つ編みが似合うと思ったんだ・・・・・・」

土下座までして三つ編みをさせてくれと頼んだ結果がこれだ。
レイは一瞬何かおぞましいものでも見たような目をシンに向けた後、顔をゆっくりと上げたシンの額に思い切り蹴りを食らわせたのだ。
その威力たるや、その場にいた『大戦の英雄』アスラン・ザラでさえ受け止められるか微妙なものだったと言う。

「でも、確かに興味あるかも。レイの三つ編み」

ルナマリアの声が楽しそうに弾んだ。

「だろ?」
「ねぇ」

二人は目を合わせた瞬間、同時ににやりと笑った。
目的は同じ。
ならば協力。
硬い握手を交わす二人をアスランは見てみぬフリをすることにした。











それから何日か後、レイは憔悴しきっていた。
シン一人がよってくるのならまだ対処のしようもあるが(妹の形見の携帯電話を投げてやればそちらに飛びつくのは学習済みだ)なにせルナマリアは疲れを知らない。
しかもしつこい。
「あ、あそこにアスラン・ザラが」と言う手も最近では通用しなくなってきた。
そんなレイが逃げ場として選んだのがそのアスラン・ザラの部屋だ。
彼がフェイスでよかったとつくづく思う。
何しろ権限を駆使して部屋のロックを簡単に解除できないようにしたり食事はルームサービスを頼んだりと自由な立場だ。
彼に頼み込んで居候と化しているレイは今度ひそかにギルバートにフェイスへの昇格を頼んでみようと決意した。





そして更に数日後。
ミネルバに一人のお笑い芸人もといフェイスが配属された。
彼の名はハイネ・ヴェステンフルス。
名乗った次の日には灰猫隊長と親しみを込めて(遊ばれているとも言う)呼ばれるほどの男だ。
ルナマリアにとってはやりやすい上官、そしてレイにとっては地獄と呼ぶに相応しい日々の幕開けとなった。
彼は、シン・ルナマリア派だったのだ。

アスランの持つフェイスの権限は同じフェイスであるハイネには通用しない。
つまり、アスランの部屋に引きこもっていようとハイネがきたらそこはもう安全地帯ではなくなる。
寧ろアスランが居ない時など密室状態で余計に危ない。

「レイちゃん、見つけた」

来た。
レイはコーヒーカップをテーブルに静かに置くと猛ダッシュで部屋の外へ出た。
ドアの横に立つハイネはあまりの素早さに一瞬彼を見逃しかけた。
が、そこはフェイスの腕の見せ所。
レイの腕をがっしりと掴むと満面の笑顔を見せる。

「逃げんなよ。別にとって食おうって訳じゃない」
「それを聞いて少しは安心しました。オレに絡んでくるのは何故か身体目当ての男が多いもので」
「安心したならそうやって全力で逃げようとするのやめて欲しいんだけど?」
「少しは、と言ったでしょう。そんな面白そうな顔をしている人を信用なんて出来ません」
「冷たいな、お前。友達無くすぞ」
「・・・・・・」

大きなお世話だ。
レイはハイネの手を思い切り振り解くと逃げた。
が、世の中そんなに甘くない。

「シン、ルナマリア!回り込め!」
「はいっ!」

楽しそうに目の前に現れたシンとルナマリア。
後ろにはハイネ。
逃げ場がない。
だがここで観念しては今まで逃げ回ってきた苦労が水の泡だ。
一瞬の迷いの後、レイは懐に忍ばせておいたアスラン・ザラの生写真(シャワーシーン、隠し撮り)をさりげなく落とし、ルナマリアの注意を引き、その隙に出来た場所を通り逃げると言う非常に姑息な手段を使った。




自室にこもったレイが真っ先にしたことは部屋のロックを新しくかけ直す事だった。
とりあえずマユ・アスカの携帯電話を部屋の外に投げ出したことでシンの足止めは完了した。
10秒あれば余裕でロックナンバーを変えられる。
メチャクチャなナンバーを打ち込むとレイはギルバートのところへと通信を開いた。

『やぁ、レイ。どうしたのかね、突然?』

目の前で微笑むギルバートに思わず頬が緩みかけるレイ。
だが時間がない。
レイはたった一言こう言った。

「ギル、オレにフェイスの権限をください」
『突然どうしたんだい?』

真剣な目をして自分を見てくるレイ。
ギルバートはその目が可愛い、と思いながら柔らかに尋ねた。

「いえ、別にオレをフェイスにしてくれなくとも・・・あの灰猫とか言う男をフェイスから一般兵に格下げしてくれればそれでいいんです!」
『ハイネ・ヴェステンフルスが君に何かしたのかい?』
「シン、ルナマリアと一緒にオレを三つ編みにしようとしつこいんです。はっきり言って、貞操の危機すら感じるほどです」

ここまで言ってやればギルバートも二つ返事で自分にハイネと同等の権限か、それ以上の権限をくれるに違いない。
ギルバートに好意を寄せているレイはなるべく彼の行為を利用したくはなかったが、これぐらいしないと彼らからは逃げられない。
少々の罪悪感を感じつつ、彼はギルバートの返事を待った。

だが、レイに返された答はまったくの予想外だった。

『ああ、シンはまだ君の三つ編みにこだわっていたのか』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

まだ、とはどういうことか。
こだわるってなんだ。
それよりなにより何故ギルがシンの野望を知っている。

『アーモリーワンで私が肌身はなさず持っていた小さい頃のレイの写真を彼が偶然見てしまってね』
「・・・・・・・・・」
『それというのも、君が私やラウのお気に召すだろうと考えて自発的に三つ編みをしてくれていた写真で・・・』

ブツン。
レイは何も言わずに通信を切った。
当然の如く、マッハで再び通信がつながれる。

『随分と冷たいね、レイ。だが事実は変えられない』
「何故そんなものを持ち歩いていたのです?」

レイ自身、怒りを上手く抑えられているとは思っていなかった。
だが、ギルバートはなんとも思っていないようだ。
これも育ての親のなせる技か。

『君の可愛らしい姿はいつでも見られる状態にしておかないと、私は寂しくて・・・』
「ならば艦長の写真でも持ち歩け」

ブツン。
レイは再び通信を切った。
今後は通信がかかってきても一切回線を開かないことを心に誓う。

そしてついにドアのロックが破られた。
喜々としてシン、ルナマリア、ハイネが入ってくる。

その時レイの頭で何かがはじけたような気がした。
視界が広がり、頭の中もクリアになって冷静な判断が下せそうな気がした。
その様子に最初に気付いたのはハイネだった。

「オイ・・・・・・なんかやばいんじゃないのか・・・・・・?」
「へ?何が?・・・ですか」

ハイネが一歩あとずさったことにシンは何の疑問も抱かなかった。
だがハイネの方に目を移したシンは、次の瞬間に倒れた。
レイがわずかに微笑んで銃(支給品)を投げつけたのがシンのこめかみにクリーンヒットしたらしい。

「お前・・・・・・」
「どうしたんです、灰猫隊長?オレを、捕まえるのではなかったのですか?」
「レ、レイ!?どうしちゃったのよ!?」

ルナマリアがおろおろしているのを見てもレイはその微笑を崩さない。

「ルナマリア」
「な、なによ!?」

はっきり言って、レイの微笑みは恐ろしかった。
次に彼が口を開いた時、自分の命はシンの後を追うことになるかもしれない。
だが、それでも喋らずにはいられない。
それがルナマリア・ホーク。

「そんなに三つ編みが見たければ、自分で髪を伸ばしてしてみるといい。ああ、金髪がいいのか?それならば灰猫隊長の髪で遊べばいいだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヤバイ、キレてる。
後にハイネ・ヴェステンフルスはこう語った。

『誰もが崩れてく・・・・・・願いを求め過ぎて・・・・・・』









やがてレイの部屋からシンの死体が放り出された。
それと時を同じくしてルナマリアとハイネが先を争ってレイの部屋から出て行くのが目撃されている。

アスラン・ザラはその光景を見て呟いた。

「・・・・・・彼も、SEEDを発動させられるのか・・・・・・主要キャラ特権だからな、ある程度の予想はしていたが・・・・・・」











あとがき

星夜鸚鵡は「レイに三つ編みをさせる話が書きたかった。実際は未遂に終わったが、今では反省している」と述べています。
その一方、「やはり三つ編みをさせたほうがよかったと思う気持もある」と犯行をほのめかすような供述もしています。

ごめんなさい、色々。