ガンダムSEED DESTINY アナザーストーリー
RUN IN A WORLD〜世界を駆ける者〜
外伝
料理のできない女性も別に嫌いではないのだが。 と言うより、彼女の料理の腕はすごい所だってあると言うのを自分は知っている。 いい意味でも、悪い意味でも。 「ところでルーラリア、これはなんですか?」 ニコルは引き攣った笑顔を浮かべた。 目の前で異臭を放ち、綺麗にラッピングされているその箱の中身は。 「何って、チョコ。見れば分かるでしょ?」 とてもじゃないが見て分かるものじゃない。 日本には2月14日に女性が好きな人にチョコレートをあげるならわしがあると言うのはイザークから聞いていた。 しかし、箱に入った殺人的な何かを受け取ると言うのはなかったはずだ。 いや、予想はしていた。 中途半端に日本人のルーラリアがもしかしたらチョコレートをくれるのではないかと。 だが、自分の料理の腕を自覚している彼女が手作りのチョコレートをくれるなど予想もしていなかった。 「・・・・・・手作り・・・・・・ですよね・・・・・・」 「うん。あ、でも、これは上手くできたんだよ」 異臭を放っている時点でお世辞にも上手くできたとは言いがたい。 そんなニコルの気持ちがしっかりと顔に出ていたことに気付いていないに違いない。 ルーラリアはにっこりと笑った。 「大丈夫、失敗しちゃったのはキラとアスラン、イザーク、ディアッカに義理チョコとして贈っておいたから」 「なんて事したんですか、ルーラ」 せっかく前の大戦を生き残っても、まさか14歳(36歳?)の少女の手作りチョコで死ぬなんて誰も予想しなかっただろう。 いや、もしかしたらイザーク辺りは部下に頼んで適当に処分しておくつもりなのかもしれない。 その方が賢明だ。 というか彼ならそうする。 保身のためには部下の犠牲すら厭わないだろう。 問題は彼がルーラリアの和食以外の料理が如何に殺人的かを知らないと言うことだが。 「いやー、嫌がらせで完全に失敗したものを現最高評議会議長殿に送ろうかとも思ったのだけれど」 「・・・・・・本気でそんなことしたらテロリストとして処分されても文句は言えないと思いますが」 「思っただけだよ。実行するのは時間の無駄だった」 嗚呼神様。 ルーラリアを「時間の無駄」が嫌いな子に産んでくれてありがとうございます。 でもどうして料理の腕をもう少し上手にしてくれなかったんでしょう。 ニコルは本気でそう考えた。 ともあれ、現最高評議会議長ギルバート・デュランダルの命がこの瞬間助かったことだけは疑いようのない事実だ。 そこまで考えた時、ニコルはある恐ろしい可能性に気付いた。 「・・・・・・ルーラ、貴女まさか僕達の父や母にも送ったんじゃないでしょうね!?」 昔から何かしら交流があったルーラリアと元評議会関係者たち。 死んでしまったシーゲル・クラインやパトリック・ザラはともかくとして、ディアッカの父やニコルの両親、イザークの母親にまでこの殺人チョコを送りつけているのだろうか。 「タッドとユーリには当然送ったよ。女の子同士であげるってのも考えたんだけど、エザリアやロミナには送らなかった。だって失敗しちゃったものをあげるなんて、友情にヒビが入りそうで・・・・・・」 だとしたら確実に自分の父やディアッカの父とルーラリアの間には修復不可能なヒビが入っただろう。 もしかしたらヒビどころじゃなく、谷間になっているかもしれない。 それも対岸が見えなくなるほどの。 「毎年送ってたんだけど、去年は送れなかったからねー」 「・・・・・・毎年・・・・・・・・・」 よくここまで友情がもったものだ。 まぁ、彼らがルーラリアに甘いのは周知の事実であるからして、たいした問題ではないのかもしれないが。 「・・・・・・で、これを僕に食べろと?」 「うん」 訪れる気まずい沈黙。 「・・・・・・やっぱり、お腹壊すと思う?」 ちょっと沈んだような声で言われると良心が即座には首を縦にふらせてくれない。 しかし、「やっぱり」ということは彼女は確実にこれが酷い出来だと自覚しているわけで。 「いつもよりは頑張ってみたんだけど・・・・・・」 「・・・・・・努力は認めます・・・・・・」 「・・・・・・」 見るからに項垂れるルーラリアを見て、ニコルははたと気付いた。 そういえば一年前のこの日は戦闘でチョコレートをつくるつくらないと言っている場合ではなかった。 しかしラクスが地球軍に人質にされたとかの騒ぎが入ったときぐらいに好きな人にチョコを上げたいと確かに言っていたのを覚えている。 「・・・・・・ごめん、やっぱり食べれたものじゃないよね・・・・・・」 「・・・・・・誰も食べないとは言ってませんよ」 「え・・・?」 ルーラリアは驚いたような表情を浮かべた。 「でも・・・・・・」 「ルーラが心をこめてつくってくれたものを捨てるなんてことは出来ません。僕の為に、つくってくれたんでしょう?」 「・・・・・・うん・・・・・・」 「それなら、いただきます」 ラッピングしてあるリボンをほどき、箱の中からもっともまともな見た目と匂いのしているチョコを慎重に選ぶ。 口に入れれば、見た目と匂いに反して結構おいしい。 予想として卒倒さえしなければいいだろうと思っていたニコルは意外そうな表情をした。 「・・・・・・おいしい、ですよ?」 「・・・そう?」 「ええ・・・・・・少なくとも、一昨日に匂いだけで人が殺せそうなシチューを作った人の手作りとは思えないほどです」 「ボクの手作りだとは思えないって言ってくれる?せめて」 さりげなく毒を吐いたことにニコルは気付いているのだろうか。 「・・・・・・ありがとう、ルーラ。僕のために作ってくれて」 微笑むニコルにルーラリアは抱きついた。 「嬉しい・・・・・・そう言ってもらえて・・・・・・」 幸せに浸ろうとする二人だが、突然、実に都合の良いタイミングで電話が鳴り響いた。 ニコルが受話器を取る。 「もしもし・・・・・・」 『オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハのボディーガードであるアレックス・ディノの殺人未遂容疑がかかってるんだが』 受話器から挨拶もなしにカガリの疲れた声が聞こえた。 『来年からは頼むから送らないでくれ。暗殺ではないと行政府に言い聞かせるのに私はとても苦労した。丸一日が潰れたぐらいだ』 「・・・・・・言い聞かせておきます」 『ついでにキラもなにやら倒れたと言う情報が入ったんだが・・・・・・どうやら意識は取り戻せたらしい』 「・・・・・・本当に申し訳ありません・・・・・・」 謝っているはずなのだが、どうしても苦笑になってしまう。 カガリもカガリで大きくため息をついた。 『・・・・・・まさかとは思うが、外交問題に発展しかねないところにまで送ったんじゃないだろうな?例えば・・・・・・』 「イザークとディアッカのことを言っているのでしたら手遅れです」 カガリが石になった音がした。 彼女に気苦労を思えば笑っては失礼なのだが。 「大丈夫ですよ、その辺はディアッカが上手くやってくれると信じています。それにあちらには事情をお察しできる元評議会関係者が何人かいらっしゃいますし」 『・・・・・・・・・ニコル・・・・・・・・・』 「はい」 『私は何も聞かなかった。お前に電話してプラントとの間にこれから起こるであろう問題を知る機会はなかった』 「ええ、是非そうしておいてください」 『じゃあな。アスランの意識が回復したらまた連絡を入れる』 そう言ってカガリは電話を切った。 内容が大体分かったルーラリアは気まずそうに視線を明後日の方向へ向けた。 「・・・・・・じゃあ、ことを大きくしないよう、ディアッカ達にも連絡を入れておきますね」 「・・・・・・ゴメン・・・・・・」 『イザーク?ああ、アイツならさっき病院運ばれたぜ?』 ディアッカは爆笑をこらえている様子だ。 『いやー、オレはルーラからのチョコだからやめとけって言ったんだぜ?なのにアイツ、律儀に食うもんだから・・・・・・そうそう、何とか容態は持ち直したそうだから安心していいじゃないのか?』 「本当にすみません。あ、それとディアッカと僕の父に・・・・・・」 『・・・・・・・・・ニコル、それは聞くな』 爆笑から一転、黒いオーラが電話越しに感じ取られるほどのディアッカの沈みようにニコルは何かあったことを悟った。 『ともかく、二度と洋菓子は送らないように言っといてくれ。あと、どうやったらあんなん作れるのか今度是非教えてくれ』 「ええと、台所に残っていた惨状によるとどうやらチョコを溶かして固めるだけの至って普通の、シンプルなチョコを作ったようです」 『・・・・・・・・・』 「すごい才能を秘めていますよ、彼女」 『・・・・・・そうだな・・・・・・今度また戦争でも起こるようなことあれば、双方にチョコ送るだけで戦争終わると思うぜ?』 何気に失礼なことを言ってディアッカは電話を切った。 だが、誰が作っても味にたいした変わりが出来るとは思えない作り方をして殺人的なものにまで昇華してしまうチョコを作ったことを目の当たりにすればそれも当然か。 「ルーラ、今度から何か作るときは必ず僕と一緒に作りましょう」 あの後ラクスの元に電話をかけ、キラを重体にしてしまったことを謝り倒し、ニコルは真顔でルーラリアにそういった。 ルーラリアも自分のしたことの重大さを理解したため素直に頷くしかなかった。 あとがき 途中があまりにも甘かったので最後の方をギャグに。 ちなみにディアッカはチョコを自分の父親にあげました。 チョコは被害が大きかった順にアスラン、キラ、イザーク。当然作った順番です。ディアッカは被害を回避したものの、食べていたらキラ並に重体。 ※ブラウザバック推奨 |