些細な事でケンカをした



自分は誰にでも人当たりがいい(らしい。よく言われる)。
その自分が珍しく大神とケンカをした。

周りから見ていて、ケンカをしたと言うのはすぐにわかったらしい。
いつも一緒にいるのに全く近づこうとしないボク達。
口を聞こうともしない。

席は隣同士なのに、大神との距離はとても遠くに感じた。

ほぼ1日口を聞かずにいて、気がつけば5限目が終わっていた。
休み時間に大神の隣にいる気になれなくて廊下に出る。
チャイムの鳴る寸前に教室に入ると6限で使う英語の辞書がボクの机の上においてあった。
そういえば大神に貸していたっけと思う。
口は聞かなくても彼はちゃんと返すものは返すんだ。
ケンカをしたら借りた物は借りっ放しという若者が多い中、立派な事だと思う。
そんなことを言うボクも若いけれど。



授業が終わって、部活もなくて。大神と顔を合わせないようにして家に帰る。
今日という一日はとても長かった。
大神と一言も口を聞かなかった日は、知り合ってから一日もなかった。
常に隣には彼の姿。
それが当たり前だった。
ボクはあまり物事に執着しない。
他人とはあまり関わりたくなかった。
おかげで高校時代までの知り合いの中で顔と名前が一致している人間なんて10人いるかいないか。
そのボクが、一人の人間に執着することになるなんて。

明日の予習でもしようと英語の辞書を開く。
『Love』の単語にマーカーで線が引いてある。
鉛筆で書き足された言葉は『オレの、白雪姫へのキモチ』

ずるいな、大神は。
こんなことを書かれたら返す言葉なんて一つしかないじゃないか。
『me too  ボクも、愛してる』

明日にでも仲直りしようかな。
ボクが大神と口を聞かなくて寂しかったように、きっと大神も寂しかったはずだから。

家の電話が鳴った。
その電話が大神からだったらいいのに。



その電話が、彼の死を知らせるものだとは、思いもしなかった





棺の中の大神は酷い怪我だった。
御柳君を庇って事故に遭ったと。
どんな死に方がその人に相応しいかなんて考えたこともないけれど、大神の死に方は本当に彼に相応しい死に方だと思う。

大きなケガにもかかわらず、大神の顔はとても綺麗だった。

なぜか涙は出なかった。
悲しいという気持ちも起こらなかった。
何も思えなかった。

ボクは大神に執着していたようだった。
だけど、もしかしたら執着していたように見せかけて実は興味がなかったのかも。
大神が死んでも何も感じない。
それでも本当に君に執着していたのかな。



葬儀が終わった。
家に帰ってから思い出したように英語の予習に取り組む。
これは日常。
大神のいた日と何ら変わらぬ日常。

英語の辞書からメモ用紙が落ちる。
挟んでおいた覚えのないそれを拾い上げる。

『白雪 ごめん
 大好き
 明日、ちゃんと顔見て謝る
 だから今はこれで許せ』



「・・・お・・・かみ・・・っ」

メモ用紙に涙が落ちる。
大神の字が滲んでしまうと思い、慌ててメモ用紙を避ける。
裏にも続きはあったけれど、その時のボクはとても読めるような状態じゃなかった。

明日謝る、なんて。
もう君に明日はないじゃないか。
ボクだって言いたいことはあったのに。

ごめんね
好きだよ

何度も、君の顔を見て言いたかったのに。
君の腕に抱かれるあの幸せを、ずっと感じていたかったのに。

何も感じなかったのは大神に執着していないからじゃない。
涙もなかったのは大神の事を好き過ぎたから。

どうしても彼の死を認められなかった。



逝かないで

帰ってきて

いつものようにボクを抱きしめて

好きだよって言って





ボクは一人で、ずっと泣き続けた












それから4年後―――



蛟竜 飛竜 天竜 白竜
大神の投げた球を大神を慕っていた犬飼君が投げていた。
その姿が大神と被る。

だけど、まだその球は大神に遠く及ばない。
もったいないよ。
大神の球はすごかった。
犬飼君には素質がある。

大神の投げた球を犬飼君が完璧に投げたら。
もしかしたらすごい結果が出るかもしれない。

大神の遺志をついで、世界に通用するかもしれない。

そのためには四大秘球を完璧にしないと。
それは大神と組んでいたボクだからこそできること。

大神との最後の約束でもあるしね。





『それからよ、あいつらが高校は十二支に入るって言ってくれたんだ
 そん時はオレ達であいつらを鍛えてやろーぜ
 約束な』












あとがき

危うく5限の放課と書きそうになってしまった名古屋人・星夜です。
大神×白雪同盟でも作りたい昨今、でもぶっちゃけるとリバもいけます。
精神的白雪×大神。身体は大雪。
最後の一文はメモの裏に書かれた続き。
大神は白雪の最初の自己紹介のときに「じゃ、お前のこと白雪姫って呼んでいい?」とか聞いてそうなイメージ。
嫌がる白雪の肩を叩いて「オレ、白雪姫(童話の方)好きだからいいだろ?」とか言って強制的にOKさせそう。