※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。
※沖君の助力で大神さんの霊が降臨なさっています。







現在の状況:
一回裏 終了
Aチーム 0−1 Bチーム



二回の表はAチーム、御柳の打席からだ。
しかし、いくら華武の四番を誇る御柳といえど、紅印がキャッチャーをやっている限り、球を打てるとは思えない。
というか、打たなければどうしようもないはずの、ある意味常に背水の陣ともいえるこの試合においても打てないというのは、かなり切羽詰った事態だ。
確実に打つために、Aチームは作戦会議に入った。

「耳栓ですら通用しなかったんだ。小細工なしで攻めていった方がいいんじゃないかな」
「そうは言うけど、牛尾さん。オレ達がどれだけ精神的なショック受けたか、見て分かっただろ!?」

由太郎は牛尾の案に異議を唱えた。
声を防ぐ装備をつけてまで、完全敗北だ。
装備なしで挑んだら、魂まで持っていかれるかもしれない。
まったく何の対策も立てずに挑んだ神鷹も、由太郎に同意している。

「ま、オレだってまったく怖くねーっていったら虚勢になるけどな。けど、オレがここでホームランでも打たなきゃ、負ける。いや、試合には勝つつもりだけど、一点ロストした瞬間に、精神的には完全敗北だ。だから、オレは……なんとしてでも、打ってやる……」

御柳は決然とした面持ちで打席に向かった。
Aチーム全員が心配そうに見守る。
対して、Bチームの表情は対照的だった。
全員が「こいつ、バカだ……」そんな表情をしている。
紅印はため息をついた。

「アタシも舐められたものね」
「別に。ただ、なにをしたってアンタの攻撃からは身を守れないってことを知ってるだけだ」
「ああ、なんかいいセリフだけど、兄貴相手だとなんとなくエロさ漂うよな」

影州が御柳には聞こえないように呟いた。
さすがにこの呟きまでを御柳の耳に入れては可哀想過ぎると思ったのだろう。
御柳が打席に入る。
確実にホームランを狙う気だ。
何故なら、御柳はそれができるバッターだから。

「そう、確かにあなたは強いわ。地区予選でも、影州の球を難なく捕らえたんですものね。剣ちゃんさえいれば、あなたのようなボウヤごとき……って何度思ったことか」

影州が投げる。
一球目は外角に大きく外れて、ボール。

「へっ、今更オレの強さにびびってんのかよ」

ストライクゾーンから外れたボールを投げられたこと、そのことで軽口を叩いた御柳は、本来の己を取り戻そうとしていた。
いいことだ、と思うAチーム。
しかし、由太郎と神鷹は気づいていた。
これは罠だ。
孔明級の罠だ。
紅印が相手を持ち上げるとき、それはより精神的ダメージを負わせることとなる。

「ところで芭唐ちゃん。あなたギャンブル好きだって聞いたけど」

何気ない雑談を装う紅印。
御柳は余裕を崩さず、それに答える。

「ああ、大好きだぜ」

神鷹や由太郎は怯えすぎだ。
御柳はそう結論付けた。

「じゃ、パチンコはやるの?」

御柳は完全に紅印を過小評価している。

「たまにな。オレ、強いぜ」

にやりと笑って、再びバットを構える。

「そう。じゃあ、当然これは知っているわよね」

オチが読めた。

「逃げろ、御柳!罠だ!」

由太郎が叫ぶ。
しかし、遅かった。

「芭唐ちゃん。あなたと、合体したい……」

ズバン!
ストライク、ど真ん中の球。
見逃し。

「け、汚された……」

バットが手から滑り落ちる。
御柳はそのまま地に膝をつき、泣き崩れた。

「お、オレの純潔が…」
「ない。お前にそんなモン、欠片も無い。意味勘違いしてんなら、今すぐ正しい意味を覚えろ」

どの口が純潔だとか言うのか。
猿野は白雪から渡された辞書を御柳に投げつけた。
『純潔』の項目のところにしっかりと付箋がつけられている。

「オレ……合体すんなら冥とじゃなきゃ嫌だ!」
「そうね。気持ちは良く分かるわ」

紅印が御柳に微笑みかける。
もう十分に戦意喪失した御柳に、これ以上何をしようというのか。
内心ではもっとやれと思っていた一塁塁審帥仙も、さすがに止めに入った方がいいのかと考え出していたぐらいだ。
紅印は天使の微笑を浮かべ、悪夢のような止めを刺した。

「でも。芭唐ちゃんがホームインするときには、アタシが両手を広げて真っ先に歓迎してあげる」

終わった。
Aチームは御柳を見捨てることに決めた。
犬飼だけが御柳の身を案じていたが、他のチームメイトは非情にも、魁と牛尾がどんな対策をしたらいいのかについて話し合っている。

「多分、あれが中宮くん最大の隠し球だったと思う。つまり、あの言葉を使ったからには、それ以上のものはこないと考えていいだろう」
「牛尾の言うとおりだ。それに、あれだけの隠し球を頻繁に使ってくるとは思えん。だとすれば、村中魁、牛尾、お前たち二人でなんとしても得点しなければならん」

二年、三年の作戦会議が続く中、由太郎がポツリと呟いた。

「……逆に、オレ達から仕掛けるのってどうかな?」





震えている御柳を三振に取り、1アウト。
続いて魁がバッターボックスに入った。
紅印は次の手を打って来た。

「魁ちゃん。由太郎くんをアタシに頂戴」
「っ……!」

ストレートに魁にアプローチではなく、大切なものを頂く発言。
魁の手がピクリと震えた。
その隙に影州は一球目を投じた。
ストライク、高め。

「大切な弟をやる訳にはいかぬ……」
「由太郎くんをくれるのなら、アタシは魁ちゃんにアプローチするのを諦めるわよ。それでも?」

瞬間、魁は野球のことを忘れた。
影州の球が、今度はど真ん中にきた。
ハッ、と気がついた時にはもう遅い。
慌ててバットを振っても意味がない。
身内への想いと保身とを秤に掛けた心は、しっかりと利用されていた。

「そうね……だけど、由太郎くんを売り渡したら……どうなるかぐらいは想像がつくでしょう?」
「いまぁじぃん、ぜあーず、のー、へぶ〜ん!」

白春のメチャクチャな発音と音程の歌も、魁にとっては絶望の象徴でしかなかった。
何が嫌って、歌詞が心情そのままなのだ。
嫌にもなる。

「しかし、ここで朽ち果てる訳にはいかぬ……!」
「あら、アタシの口で果てたいの?」

くいんの こうげき!
かいは いしに なった!
石化した人間がバットを振れるか。
そんなことは考えるまでもない、否だ。
白春が大きな欠伸をして油断を見せているにもかかわらず、魁がバットを振ることはなかった。

「牛尾……」
「大丈夫さ、屑桐」

決して無茶はするな。
屑桐の無言の励ましに、牛尾は頼もしい笑みで頷いて見せた。

「僕には秘密兵器がある」

三振の魁と入れ替わるように、牛尾はバッターボックスに入った。

「中宮くん。君達の作戦もここまでだ」

牛尾の自信に満ち溢れた声に、紅印が違和感を感じないはずはなかった。
ここまで徹底してモーションをかけてきたのに、何故これほど自信を持つのか?

「僕には勝利の女神がついている」

牛尾のバットが高々と示された。
予告ホームランというやつか。
そのバットの示す先。
小さな人影が見えた。
青い髪。
サングラス。
まさか。

「あなた、まさか葵ちゃんに愛のこもったボールを届ける気?」
「そう、そのまさかさ」

兎丸が露骨に顔をしかめた。
そんなこと許してなるものか。

「だったら次の子に賭けるまで。あなたを歩かせたところで、大きなミスが出る訳じゃなし」
「ま、次はキザ虎だしなー。牛尾主将に打たれるよりかは遥かにマシな判断だろ」

フォアボールで歩かせる。
そういうサインを確認した猿野は頷く。
しかし、牛尾はまったく気にしていない。

「例えフォアボールを狙われようとも、僕は決して負けはしない。何故なら、僕の葵への愛は不可能を可能にするからね。中宮さん、君と同じように……」

紅印がその言葉に反応する。

「アタシと……同じ……?」

不思議そうに呟く紅印に、牛尾は頷いた。

「覚えているはずだ。今は御柳くんと村中由太郎くんのターンだけれど、その前のシリーズでは中宮さんが不可能を可能にし、猿野くんは隊長にまで昇格していたことを!」
「そうよ!アタシが主人公達に拘束されてる間に無涯ちゃんがあっさり殺されたあのシリーズを、アタシが忘れる訳ないじゃない!」
「ハレルヤ、牛尾さんの悪意が見えるようだぜ……!」
「由太郎ちゃんは黙ってなさいよ!一期終盤で精神崩壊で退場とか言われてるくせに!」
『ガンダムオタクか、お前ら!』
「兄貴……」

影州はグッと球を握り締めた。
その拳は、小刻みに震えている。
きっと、このオタク談義に耐えられなくなったに違いない。
よし、頼む。
このガンダムオタクの流れを断ち切ってくれ。
大神はそう願いを込めた。
影州が大きく振りかぶった。

「前シリーズの主人公は剣菱だーっ!」

どすっ、と鈍い音がした。
影州の投げた球は紅印のキャッチャーミットにめり込んでいる。

「テメーを拘束してたのは前々シリーズの主人公だろーがっ!」

そうきたか。
これ以上ないほど素晴らしいストライク。
しかし、大神はボールと叫びたい気持ちでいっぱいだった。
ツッコミは間違いなくストライクゾーンを大きく外れていた。

「まさか剣菱のことを忘れるなんてなっ!薄情にもほどがあるだろ!」
「わ、忘れてなんかいないわよっ!あ、あの子でしょう!?ええっと……『俺がガンダム』の……」
「それは今作だっ!」

影州のツッコミと共に球が走る。
しかし、ツッコミに全身全霊を投じてしまったためか、球は思いっきりストライクゾーンど真ん中。
牛尾がバットを振った。
キィン、と音を残し、ボールはセンターへ飛ぶ。

「いやん!」
「げっ!」

双子はようやく事の重大性に気がついた。
兎丸が走るが、追いつけない。
Aチーム、初安打である。

「よし、牛尾。よくやった」
「さっすが牛尾サンだNa!」
「あいつのバット、今日は絶好調にピーじゃねーか!」

盛り上がるAチームベンチ。
既に大盛り上がりになっている。
これが打倒Bチームへの反撃の狼煙となるのか。
きっとなる。
いや、なってくれないと困る。





「牛尾さんに言われてきたのはいいけど、ものすごい戦力差だよね、ウナちゃん……」

司馬は手に抱えたウナちゃんに話しかけながら、グラウンドを見つめていた。

「なんていうか、紅印さんと犬飼達を引き離した時点で、勝負が見えてる」
「キュー」












あとがき

すいません、遊びすぎました。
最初はアクエリオンだけで終わる予定でした。
でも、司馬くんも言うように、欲望による戦力差が余りにも違いすぎるため、何とか頑張ってもらおうとした結果、変な風になりました。
ごめんなさい。

参考:
ガンダムW→沢松、紅印
ガンダム種&運命→猿野、紅印、剣菱、屑桐
ガンダム00→由太郎、御柳