※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。 ※沖君の助力で大神さんの霊が降臨なさっています。 現在の状況: 一回裏 Bチーム攻撃中 ノーアウト 1、3塁 Aチーム 0−1 Bチーム 迎えるバッターは主人公・猿野天国。 由太郎は、この状況が非常にまずいことを知っていた。 足の速い白春が3塁ランナー。 1塁にいるとはいえ、録だって華武高校のレギュラーだ。 易々とアウトにはできないだろう。 そして、猿野。 ただでさえ爆発的なパワーと、ここ一番の勝負強さを持っている。 それに加えて、主人公補正。 どう見ても死亡フラグです、本当にありがとうございました。 そんな一節まで頭に浮かんでしまうほどの絶望的な状況だった。 しかし、ここでBチームを叩いておけば、気持ちの上でこちらが有利になる。 流れがAチームにくるかもしれない。 個人の能力でなら、Aチームのほうが勝っていると由太郎は思っている。 しかし、これ以上Aチームが失点を重ねれば、ヤキュウ拳ルールや罰ゲームも含めて取り返しの付かない事態になる。 ここで猿野に主人公補正が出るかどうか、それがこの勝負の勝敗を分ける。 「そういうわけだから、ここは猿野が打てないように敬遠したほうがいいと思うんだよ」 マウンドへ行った由太郎は犬飼にそう伝えた。 そう、正論だ。 確かに打つことが主人公補正なら、打てないようにしてやればいい。 武軍がかつて使って卑怯呼ばわりされたあの手だ。 卑怯だと言われようがなんだろうが、敬遠してれば負けることなど無かったというのに。 レフトで神鷹が顔を背けている。 敬遠しなかったことで夏が終わってしまった彼にとっては、無かったことにしたいほど悔しい歴史の一ページだろう。 「猿野の次のバッターは沖だし、猿野相手にするよりは楽だろ?」 「バカ猿を敬遠するのに反対はない。だが、その後の奴等はどうする。大神さんの球を掠らせる気は無いが、沖の後の兎丸が万一掠らせでもしたら・・・・・・」 「どうせ塁は全部埋まってるから、刺せるよ。そしたら、その後ろまで回さずにすむ」 「・・・・・・分かった」 「あらあら、作戦会議なんかしちゃって。ああやって考え事してる二人って、なんだかいいわねぇ・・・・・・」 紅印がうっとりとため息をつく。 「ねぇ。今度のあみだくじは、アタシが脱がせてあげられる項目を増やして頂戴よ」 「オレ様もそうしてやりたいのは山々なんだけどよ。それ了承しちまうと監督不行き届きで、オレ様殺されかねないんだけど」 相手チームのレフトとサードからの刺すような視線。 影州は本気でげんなりとしていた。 双子だからといって、何故に責任をかぶらねばならないのか。 あいつら、関わり合いになりたくないから紅印じゃなくて自分を選んだんだ。 きっとそうだ。 影州はそう思っていた。 そしてそれは高確率で間違ってはいない。 「おい、もうこそこそ作戦会議は終わったのか?」 「まーな」 由太郎は猿野の方を見なかった。 敬遠がばれたら、きっと猿野は、作戦を立てた自分を責めてくるだろう。 敬遠なんて、高校球児がすべきことじゃない。 由太郎はそう思っている。 だが、脱がされるという危機を前にしては綺麗事なんていっていられない。 これ以上精神的に追い詰められる前に、何とかしなければ。 『プレイ!』 大神がプレイ再開を告げる。 由太郎は立ち上がり、犬飼は猿野のストライクゾーンからは遠く離れたところに投げる。 「あっ、テメェら!」 「ちょっと、何てことするのよ!」 猿野よりも大きな声で紅印が叫んだ。 「せっかくアタシがあんたたちを脱がせてあげようと思ってたのに、余計なこと考え付くんじゃないわよ!」 「そんなことを言われたら、尚更ここは敬遠しかないだろう!」 「なによ、無涯ちゃんまでそんなこと言って!分かったわ、アンタ達はツンデレなのね!まったく、揃いも揃って!」 「ふざけるな!」 お得意の思い込みを発動させた紅印を、屑桐がベンチから怒鳴りつける。 影州が紅印の横で頭を下げている。 双子も苦労するな。 牛尾はそう思いながら胸の前で十字を切った。 「ともかく、なんて言われようと、オレ達はこれ以上失点するわけにはいかねーんだよ!猿野、ゴメン!」 由太郎は謝りながらも猿野を歩かせた。 猿野はまだ言いたいことはあったが、紅印が叫ぶのを聞いていたためか、哀れみをこめて頷いた。 確かに、自分たちだって紅印が相手なら、勝つための敬遠ぐらいいくらでもするだろう。 「あんまり気にすんなよ。敬遠ぐらい、よくあることじゃねーか」 格好よく言ったが、レフト方向からの視線が痛い。 敬遠なんて卑怯だと正論をぶつけた相手からの視線だろう。 猿野は、この試合が終わったら「卑怯呼ばわりしてすいませんでした」と、神鷹に謝っておこうと思った。 さて、こうしてノーアウト満塁という非常にピンチな展開を迎えたAチーム。 次のバッターは沖。 打撃はあまり得意ではない、と由太郎は思っている。 実際は黒撰でも三番バッターとして出塁することはあったのだが、各校の四番クラスの中で見ると、打撃はいまひとつという印象があったのだろう。 ここでダブルプレーをとってもいいが、兎丸が走らないようにするためには、沖のみをアウトにしたほうがいい。 由太郎は内角高めの球を要求した。 ここで内野フライを捕っておけば、ランナーは動けず、沖だけがアウトになる。 「とりあえず、お前が塁に出ることはねえ」 犬飼は本気だった。 わざと球威を落とし、内角高めの球を投げる。 沖はそれを見送った。 「様子見か?」 由太郎がボールを返しながら沖に訊ねる。 沖はネガティブな空気を背負いながらため息をついた。 「・・・・・・作戦立てるのって、めんどくない?」 「面倒でもこうしなきゃ、オレ達、勝てないんだよ」 沖が再び打席に立つ。 今度こそ仕留めたい。 犬飼はまた同じコースに投げた。 沖はそれを読んでいた。 打ちにいった沖だが、その時の手ごたえに、悔しそうに顔を歪めた。 同じコースではあったが、球威がまるで違っていた。 打ち上げた、と思えば既に御柳が捕球体勢に入っている。 「よし、打ち取ったぜ!」 「ちっ」 「え?」 打球をしっかりと捕球した御柳は、背後から聞こえた舌打ちの音に思わず振り返った。 そこでは白春が俯き、三塁ベースをガンガンと蹴っている。 その表情たるや、まさに般若の如し。 「あ、あのー・・・・・・久芒さん?」 「落としングすりゃ良かったの゛に・・・・・・」 御柳は何も見なかったことにした。 怖い。 怖すぎる。 さて、次に迎えるバッターは俊足の兎丸。 愛用の黒いバットを持ち、打席に立つ。 「悪く思わないでね。ボク、走るから」 「とりあえず、満塁だ。お前にできることなんて何も無い」 犬飼は投球モーションに入った。 Aチーム全員に緊張が走る。 投げた。 球が消える。 「ちっ」 兎丸が悔しそうな顔をする。 見えない球は打てない。 「白竜か・・・・・・あれ、なかなか攻略するの難しいんだよね」 今まで口を挟まなかった白雪が懐かしそうな声で言った。 さすがは四大秘球を受けたキャッチャーだけのことはある。 どうやら攻略経験があるようだ。 「どうやって攻略すんの゛?」 白春が興味深そうに聞くが、白雪は首を振った。 「それを考えるのは君達だよ。ボクが教えるのは簡単だけれど、それを教えたら何にもならない。分かるね」 「うん゛。オラ達がレベルアップするためには、頼りングしてちゃならねえってことングな」 「ちげーよ!」 サードにいた御柳が大きく首を振った。 「今までのこと考えてみろ!真意は『そう簡単に攻略されて勝負がついたら面白くない』に決まってるだろ!」 「へぇ・・・・・・すごいや、御柳くん。よく分かったね」 そう、これで勝負がつくようなことがあれば、一方的にAチームが脱がされて終わってしまう。 そうなればBチームは一枚も脱がずに終わってしまう。 それだけは避けたい事態だ。 なにしろ、埼玉選抜の実力が見えないだけならともかく、Bチームにだっていい男はいるのだから。 「犬飼!作戦通りでいくからなー!」 「作戦?そんなの、ボクには無意味だよ」 二球目。 内角低目。 兎丸のバットがピクッと動いた。 判定はボール。 「外したか・・・・・・」 「危ない危ない、つられそうになっちゃったよ」 兎丸は一度打席を外し、バットを握りなおす。 犬飼が振りかぶる。 投げた。 兎丸が打つ。 バットに当たった打球は、ショートの正面に転がる。 「うわっ!」 二塁を飛び出した録がしまったという顔をする。 完全にゲッツーコースだ。 全員が既に塁を飛び出しているし、今から戻ったとしても、猿野と兎丸がアウトになる。 兎丸の足の速さを持っても、間に合わないかもしれない。 「走れ!」 白春が怒鳴った。 止まったら攻撃が終わる。 せっかくのチャンスを潰されてたまるか。 緋慈華汰がボールを捕り、セカンドの小饂飩に投げる。 小饂飩が二塁を踏み、まず猿野がアウトになる。 白春はホームへ滑り込み、一塁を見る。 そしてまた舌打ちをする。 兎丸の足の方がわずかに遅かった。 「アウト」 帥仙がやる気なさげに言った。 Aチームが歓声を上げる。 あの神鷹でさえ、小さくガッツポーズをしている。 由太郎と犬飼を胴上げせんばかりの勢いで盛り上がるAチームとは対照的に、Bチームは悔しそうだ。 ノーアウト満塁という絶好のチャンスを潰されてはそれも仕方が無いが、紅印は人一倍悔しそうな顔をしている。 「許さないわよ・・・・・・」 その気迫に、白春が驚く。 「く、紅印さん゛、ご、ごめんよう゛・・・・・・お、オラ達がちゃんと点取りングしでたら・・・・・・」 「お前さ、いい加減学習しろ」 影州が白春の頭をポンと叩く。 「アタシが脱がせてあげるっていうのに、それをよくも拒否したわね!」 「あいつが怒ってんのはお前らじゃなくてAチームだ」 怒りの矛先が間違っている。 Bチームの面々はそれを感じながらも関わり合いになりたくないと、一切口を挟もうとしなかった。 あとがき 長い間放置だったので、若干増量してお送りします。 ついでに、最後のダブルプレーはなんとなく間違ってるかも感がありますが、気にせず見ていただけると幸いです。 |