※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。
※沖君の助力で大神さんの霊が降臨なさっています。







球審 大神照(故)
一塁 帥仙刃六(拉致)
二塁 御柳メル(強制)
三塁 白雪静山(監督)

幽霊が本塁塁審か。
全員が思ったであろうことを白春が元気良く発言した。

「ユキさん、大神さんは幽霊ング!」
「え…何か不都合?」
「ううん、ちょっと気がつきングしたの」
「そう。春くんは目敏いね〜」

アンタら、帰れ。
御柳と犬飼の口が確かにそう動いた。
白雪には幸い気付かれなかったが、猿野や紅印はそれをバッチリ目撃した。

「守備位置も打順も作戦も各チームの判断に任せます。頑張って勝利をつかんでね」



先攻はAチーム。
一番バッターは神鷹だ。
四番だらけの中、きっと考えに考え抜いたに違いない。

「あら、武軍の四番さんなの。いきなりアタシの好みじゃない」

語尾にピンクのハートがついていてもおかしくないほど熱のこもった口調。
バッターボックスに入った神鷹は平静を装いながらも早く塁に出るか三振するかしたかった。
ファールで粘るという選択肢は無視する。

「早くあなたを打ち取りたい…」

神鷹の手が小刻みに震えている。
武軍の演習でも震えなかったはずなのに。
あっと言う間に三振した神鷹はベンチに戻るなり塩を撒き始めた。
行動レベルが白春と大差ない。
御柳が大きく溜め息をついた。

「情けねーっすね。それでも武軍の四番っすか、アンタ」
「それならお前があの囁き受けろ!人を笑えなくなる!」

神鷹が怒鳴った。
自分の口で喋ることも少なかった彼を怒鳴らせるとは。
それはまるで紅印の恐ろしさを物語っているようだった。
二番バッターは小饂飩。
絶好調!と張り切って出かけるその後ろ姿は頼もしかった。
が、紅印に何事か呟かれた後、一気に元気がなくなるのが遠目に見ても分かった。

「おい、三番バッター誰だ?耳栓して行け、耳栓」

御柳が指示を出す。絶対無駄だということを分かっていてもそうする以外に方法はない。
由太郎が耳栓をしっかりはめた。
三振した小饂飩が肩を震わせて戻って来る。

「地獄を見た…」
「いくらなんでも中宮さんに失礼だよ」

牛尾が小饂飩の発言を嗜めた。
小饂飩はその言葉が聞こえなかったかのように塩を撒く。

「あんなピーな奴、見たことねー…」
「ちょっと!聞こえてるわよ、失礼ね!」
「すんませんでしたっ!」

小饂飩が地面に頭をめり込ませて土下座する。
由太郎が打席に入った。
耳栓があるので平気なはず。
そこに油断が生まれた。
彼らは忘れていた―――いや、気付かない振りをしていたのだ。
聴覚における問題をクリアしようと、視覚的な問題は何一つ解決されていない事を。
打席に入った由太郎は、決して紅印の方を向かないようにしようと思っていた。
それに気付いた影州は、ニヤリと笑った。

「作戦パターンCに移行!」

守備陣が頷く。
由太郎には聞こえていない。

「うふふ、ユタちゃん…覚悟なさい」

紅印の囁きに、Aチームは気付いた。
セクハラ的な何かを、いや、むしろ視覚における暴力を披露する気だ。
影州が振りかぶる。
第一球。
外角低目。
ボール球だが、キャッチャーである由太郎には分かる。
これは、キャッチャーがよく後逸する球だ。
紅印は捕るのか。
確かめるべく振り返る。

「あら、こんな球…アタシにとっちゃ、なんて事ないわよ」

紅印は難なくそれを捕球していた。
そして由太郎は、上目遣いの紅印と目を合わせてしまった。
ウインクされる。
由太郎の顔がサッと青くなった。
犯される。
そう感じた。
今まで紅印は屑桐や魁のような三年生に多く手を出し、一年生でも御柳や犬飼といったガタイのいい奴を文字通り毒牙にかけてきた。
だが、身長170cmを下回るお子ちゃまには手を出さなかったはずだ。
兄である魁を差し出せば、弟である自分は被害から逃れられると思っていたのに。
甘かった。
某東海地方の喫茶チェーン店名物の甘いデザートよりも甘かった。
某東海地方のいわゆる『山』のメニューにあるものより甘かった。
三振した由太郎はベンチに戻りながら思った。
これからはポケモンでルージュラを使う時にあくまのキッスは使わないようにしよう、と。
他者に対する思いやりの心を育んだ由太郎は、焦点の合わない目でキャッチャーマスクを身に着けた。



一方のBチーム。
居並ぶ四番クラスを三球三振という最高の滑り出しに、ハイタッチを決めていた。

「さっすがオカマ師匠!明美、師匠にだったら抱かれてもイイ…」

明美のカツラを被り、頬を染める猿野。

「あーら、残念。アタシは剣ちゃん専用なのよ」
「だっ!」

紅印は明美に思い切りでこピンをかました。
心は女でも力は男。
猿野は痛みに蹲る。

「うふふ、さ、作戦どおりにイクわよ」
「了解」
「任せング」

バットを持った雀と白春が頷いた。








あとがき

甲子園には魔物が住むといわれます。
埼玉選抜にも魔物は住んでいます。
魔物というか、元凶(監督)は小悪魔です。