※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。
※沖君の助力で大神さんの霊が降臨なさっています。







「もう監督には任せておけませんわ」

紅印がバン、と机を叩いた。
白春と由太郎の食後の歯磨きをしていた白雪は首を傾げる。

「なにが?」
「全部よ!旅館競馬の時は見直したのに、芭唐ちゃんと冥ちゃんの面倒見ない時点でもうダメダメ!」
「そもそもまともな練習をしない時点で、あなたに監督を任せられません」

屑桐がそう言い、牛尾達も頷く。
「旅館競馬の時は見直した」の部分はさりげなく無視する。
白雪は笑みを絶やさず紅印の肩に手を置いた。

「十二支に代々伝わる素敵な練習がね」
「アナタのおっしゃる素敵な練習にひとかけらの魅力もありません」

紅印はその手を撥ね除けた。
白雪はひどく傷ついたようだ。
俯き、肩を震わせる。
ポロポロと涙が頬を伝う。

「ちょっと・・・何も泣く事・・・」
「ごめんね・・・ボクはやっぱり役立たずだったんだ・・・」
「そこは力一杯頷きたいところだけど、アナタを泣くほど攻め・・・もとい責めようなんて・・・」
「ごめんね・・・ごめん・・・ごめん・・・」

俯いて涙を流しながら謝る小柄な優男。
彼の前に立つ長身の男数人。
道行く人の視線が痛い。

「もう・・・お話ぐらいなら聞くから、泣きやんでちょうだい」
「変則野球ヤキュウ拳っていう試合形式の練習なんだけどね」

にこっ、と微笑む白雪。
白春は白雪が後ろに回した手の中に目薬がある事に気がついた。
紅印も白雪のあまりの泣きやむ速さに不信感を抱いたようだ。

「アンタ、本当は嘘泣き・・・」
「一点ロストしたチームの子は一枚服を脱ぐの。五点ロストで全裸だよ、ぜ・ん・ら」
「詳しく話して頂けますかしら?」
「おーい、兄貴ー。騙されてんじゃねーぞ」

影州はもはや届かぬ声と知りつつ一応言うだけ言ってみた。

「失点したらそのチームは全員一枚服を脱ぐの。エラーをしたらその選手が一枚脱ぐ。それからこれは紅印ちゃんのために考えたルールなんだけど・・・打点をあげた選手は相手チームの服の脱ぎ方を決められるっていうのはどう?」
「そ、それって・・・」
「つまり、紅印ちゃんが打点をあげたら・・・『恥じらうように脱いで』とか『誰かにじっくり脱がせてもらう』とかやりたい放題」
「やっぱり監督は素敵な練習方法を御存じなんですね。アタシ、最初に監督を見た時からこの人についていけば間違いはないって思ってましたのよ」
「紅印 洗脳完了・・・」

雀は呟くとそっと後ずさった。

「屑桐くん」

白雪が次のターゲットを決めたらしい。
屑桐は騙されないぞとばかりに白雪を見る。
しかし冷や汗が頬を伝うのを3年生達は見た。

(屑桐さん・・・絶対に丸め込まれるな・・・)
(とりあえず・・・監督相手じゃ仕方ねぇだろ・・・)

御柳と犬飼は目を合わせて盛大に溜め息をついた。

「春くんを衆人観衆の前であられもない姿にして視覚的な欲望を満たすか、それとも守ってあげて好感度アップか・・・キミはどっちを選ぶのかな?」
「くっ・・・だ、騙されんぞ」
「そう、仮に春くんが真っ白で汚れのない美しい肌を衆人観衆の前に晒さずに済んだとしても・・・猿野くんや小饂飩くんのツチノコを見せられたらどう思うのか・・・ここで恋人を守れる男ってポイント高いよ」
「白春、お前の安全はオレが守る」
「屑桐さん・・・(;_;)」
「まぁまぁ」

肩を落とす録を白春が慰める。
しかし慰めている本人は何故録が泣くのかさっぱり分かっていない。

「それから牛尾くん」
「騙されませんよ」
「犬飼くんと猿野くんと兎丸くんは四月の入部試験で恥じらう司馬くんのユニホームを脱がせる事に一役買ってるんだよ。復讐のチャンスじゃないのかな?」
「屑桐、中宮さん。いい試合をしようじゃないか」

三校の主将(と代理)があつい握手を交わす。

「・・・監督のあの情報って、どこから仕入れてるんだろうな・・・」

由太郎が不思議そうに呟いた。





「というわけで、ボクがやる気の出るチーム編成をしてみました」
白雪がでっかい紙を取り出した。
「照、そっち持って」
『幽霊をこき使うなよ、ユキ。ま、オレはユキの頼みならなんだって聞いてやれるけどな』
「さすが大神さん!」
「BIGだよ、大神さん!」
「なお、特別ルールとして御柳くんと犬飼くんは1失点につき2枚脱ぐ事」
「あいつら、学習能力がまったくねーNa・・・」

白雪は忍者の巻き物の如く丸められた紙を広げた。
それを見た主に身長が高い方に分類される者達が一斉に退いた。

Aチームは屑桐、犬飼、魁、由太郎、虎鉄、小饂飩、御柳、緋慈華汰、神鷹、牛尾

Bチームは影州、クワットロ、沖、紅印、猿野、桃食、雀、白春、録、兎丸。

紅印のターゲットは全員紅印と別チーム。
確かにある意味やる気の出るチーム編成ではある。
長打力重視のAチームに対して、繋ぐ攻撃のできるBチーム。
Aチームは投手の層が厚いが、Bチームは守備の層が厚い。
一年生ルーキー達がAチームに偏ってはいるが、充分につりあいが取れるチーム編成だ。

「文句ある人は一歩前へ」

日本刀を構え微笑む白雪に意見などできる強者はいなかった。
しかも一応、実力は同じ程度に分けてある。
まさか面と向かって「紅印に狙われるからチームを変えてくれ」などといえるはずがない。
特に牛尾や屑桐は先ほど、この練習方法に対して前向きな姿勢を見せたばかりなのだ。
セブンブリッジに負けたときよりも悔しそうな牛尾と、豊臣高校に打ち込まれたときよりもショックを受けたような屑桐を無視して、白雪は話を進めた。

「それじゃ、ルールを説明するよ。まず、基本的なルールとして、一失点につき失点したチームの全員が一枚脱ぐんだ。そしてエラーした選手も脱いでもらう。大まかなルールはこれぐらいで、後はプレイしてからのお楽しみ」

なにかある。
きっと白雪にとって物凄く都合が良く、白春と紅印にも物凄く都合が良く、犬飼と御柳にとって地獄のような何かがある。

「あと、敵と味方の区別をつけるために帽子着用を義務付けるね。たとえ全裸になろうともこの帽子だけは着用する事」

配られた帽子は懐かしい赤白帽。
もっとセンスのいい帽子はなかったのだろうか。
白春は少し悩んだ。
しかしコレよりハイセンスな帽子といったら、彼の中では黄色い通学帽以外に思い当たらなかったので、赤白帽で我慢することにした。

「赤白帽って、ガキの頃に『ウルトラマン』とか言って遊ばなかったか?」

影州が同じチームの猿野に尋ねた。
猿野はすぐさま赤白帽を変形させ頭に被った。

「スペシウム光線!」

影州が両手にハサミを持つ。

「バルタン星人!」
「「バカヤローッ!」」

犬飼と御柳が影州に飛び蹴りをかます。

「とりあえず、ウルトラマンの前身に出て来たカネゴンを忘れるな!」
「違ーよ、冥!やっぱピグモンだろ!」
「ゴモラーっ!」

白春が御柳と犬飼の頭をガンガンと叩く。
じゃれあう彼等の前に紅印が仁王立ちする。

「アンタ達、初代メフィラス星人のカッコ良さを知らないなんて言わせないわよ!」
「・・・マニア?」

兎丸が話題についていけず一歩下がる。
白雪は兎丸の肩をぽんと叩くと鞘に納めたままの日本刀を思い切り振りかざした。
騒ぐ彼らはそれに気付かない。
録が恐る恐る訊ねた。

「・・・監督、何する気・・・?」
「え?なかなか騒ぎが収まらないなと思ってね。薪割りの練習だよ、朱牡丹くん」

ガツンという大きな音がした。





「ちくしょー、思いっきり殴りやがって・・・」
「暴力反対、そうだしょ?」
「ユキさんが、ぶったー!」

頭にできた大きなたんこぶを擦りながら文句を言う猿野と影州。
白春は頭ではなくお尻をぶたれ(猿野と影州は差別はよくないと主張したそうな顔をしていた)泣いていた。

「自業自得」
「雀ったら手厳しいわね」

紅印は咄嗟に白雪の攻撃を避けたため、頬に擦り傷を拵える程度ですんでいた。

「いーじゃん、アレよりはマシ気・・・(-д-;)」

録の指差す先には血溜りに伏している犬飼と御柳がいた。

「容赦なくイったな」
「しかも頭ガツンとヤった後に股間も狙ったからな」
「これでコゲ犬とガム男も短い一生を終えたわけか・・・」
「埋葬ぐらいはしてやってもいいだしょ」
「はい、おしゃべりをやめてこっちを注目」

白雪がパンと手を叩いた。
全員が一斉に白雪の方を見、姿勢を正した。

後に神鷹は語る。
その動きはまさに、統率された武軍のようだったと。








あとがき

どんどん容赦無くなる監督。
赤白帽は次第に運動会の時にしか使わなくなりました。
ウルトラマンごっこは高学年になってもやってました。
なかなか卒業できません。