※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。 ※沖君の助力で大神さんの霊が降臨なさっています。 「今日のお昼は、合宿らしく自分達で作ってもらいます」 全員の宿題をまとめながら白雪は言った。 「食材は予算2000円以内に収めること。予算内であれば何を作っても構わないからね」 「監督、桁が違うと思います」 牛尾と屑桐が同時に手を上げた。 「最低20000円はないと、何も作れないですよ」 「何を言う。2000円など、祝い事でもない限りは使わん額だぞ」 「このチームは4人野球とは違う方がいいよね」 牛尾と屑桐の言葉を無視し、白雪は新たなチームを考える。 ろくなチームができないだろうことはほぼ全員が分かっていた。 「うん、これでいこう。3人で組んでもらうね。 Aチームは虎鉄くん、猿野くん、御柳くん。 Bチームは村中魁くん、犬飼くん、クワットロくん。 Cチームは泥方くん、春くん、王くん。 Dチームは朱牡丹くん、神鷹くん、兎丸くん。 Eチームは中宮影州くん、沖くん、屑桐くん。 Fチームは霧咲くん、牛尾くん、小饂飩くん。 Gチームは村中由太郎くん、中宮紅印くん、それからボクが。 なにか質問はあるかな?」 「Cチームが明らかにヤバいもの作りそうなんすけど」 御柳が手を挙げた。 桃食と白春を緋慈華汰がまとめられるとは思わない。 そして自分達もまともな料理ができるとは思えない。 「御柳、失礼な奴だなぁ。オラ達はちゃんとうまいモン作りングするよ゛!」 「そだヨ!中国四千年の歴史、ナメたらダメ!」 「緋慈華汰さん、頑張って…」 無駄に張り切る二人を見て、沖が緋慈華汰に同情を寄せた。 普段は同情を寄せるのも面倒臭いのだが、もしかしたらここで寄せる同情が最期の同情になるかもしれない。 そう思ったら同情するしかない。 「でも、ミヤも白春達を笑えなさ気かもね」 録が笑わず言った。 「虎鉄に猿野に御柳だもんな。オレ様は屑桐と一緒でマジ助かったー」 「それにしても、偏った組み合わせね」 できない組は徹底的にできない。 何がどうしてこのチームなのか。 「ポジション別で分けたんだけど、なかなかいい組み合わせになったでしょ?」 「要するにポジションの偏りを自ら認めたってことか?」 「確かにピッチャーの多さに対して外野の少なさはおかしすぎるっしょ。冥と屑桐さん残しゃ後はいらなくね?」 「なお、Aチームは特別にこの錆びた包丁と穴あきお鍋で料理をしてもらいます」 白雪は影州に包丁を、クワットロに鍋を持たせた。 二人は何の躊躇もなく御柳と猿野に向かって包丁と鍋を投げ付けた。 コピー剃刀カーブはまさに本物の剃刀の如く猿野と御柳の頬をスパッと切った。 「監督、こいつらいなくても姉貴の打率があるから頼ってくれよ!」 「むしろAチーム全員謹慎でもワシは一向に構わん!」 「それはダメだよ。犬飼くんには大神の遺志を継いでもらわないと…」 「「殺される…」」 「自業自得でしょ。アンタ達、本当にレギュラー外されるわよ」 いくら錆びた包丁とはいえ、怒りがこもるとそれは人をも殺せる。 猿野と御柳はそれを実感した。 30分後。 「キミ達は一体何を作ったつもりなのかな?」 もくもくと立ち上ぼる紫の煙。 グッジョブとばかりに胸を張る白春と桃食に対して緋慈華汰は青い顔をしている。 さすがの白雪もあきれている。 「見ての通りヨ!」 「正真正銘、カレ…」 「カレー以外の何かだな」 「なっ…お猿はおかしいング!どっからどう見ても立派なカレーだべ!」 「そうヨ!中国四千年の歴史を詰め込んだインドカレーヨ!」 「中国かインドかはっきりしろや」 果たしてこの二人はこの自称カレーを自分達で食べるということを理解しているのだろうか。 そして、彼らが普段から目にしているカレーとは一体どんなカレーなのだろう。 猿野は本気でそれを知りたいと思った。 「出来てしまったものは仕方ないとして…この頑張りを評価するなら10点かな」 「なしてそんな低いング!?」 「ただ煙が紫てだけで点低すぎヨ!」 「その紫の煙が最大の原因だ」 影州がおたまで二人の頭を叩いた。 パコンといい音がする。 「ま、それを超えて何も出来てないチームがあるから最下位にはならないでしょうけど」 何も出来てないチーム。 当然穴あきお鍋と錆びた包丁を渡されたAチームだ。 しかし彼らはニヤリと笑う。 「オレ達を甘く見るなよ!10年近くもお袋の側で家事を引き受けてきたこの腕前は伊達じゃねぇ!」 「わー、お猿ちゃん、頼もしーい!」 「オレ達の実力、見せてやるZe!」 そう言って三人が皿を差し出す。 そこには見事、完成した酢豚があった。 「おおおおおお!す、すごいング!」 「あの穴あきお鍋と錆びた包丁でこんなのできるノ!?」 しきりと感心する白春と桃食。 だが、そんな可愛いリアクションをするのは二人だけだった。 「あ…あれ?ちょっ、みんなリアクション薄いっすよ!」 「ミヤ、いつの間にパイナップル食べられるようになった気?」 録の呆れた口調で発せられた言葉は御柳を焦らせるには十分すぎた。 御柳は慌てて酢豚をよく見る。 黄金に光り輝く悪魔の果実がそこにあった。 「虎鉄先輩、酸っぱいもの嫌いなのによく酢豚なんて食べる気になったね。あ、酢豚なら食べられるのかなー?」 「う゛っ!」 兎丸の笑顔に虎鉄は言葉を無くす。 「え、と…どゆことヨ?」 「つまりこーいうことだしょ」 影州がゴミ袋から透明なパックを取り出す。 それはよくスーパーのお惣菜売り場で見掛けるパック。 まごうことなき酢豚が付着している。 「あああああ!さてはオメ、昼飯の前に腹拵えしようと酢豚買いングしたんだなーっ!」 「違ぇよ!どう見ても買った酢豚をさも自分達が作ったかのように見せかけてんだろーが!どっから昼飯前に腹拵えなんて考えが出るんだ!」 影州はハリセンで白春の頭をスパンと叩いた。 「くっ…ゴミ箱漁るなんざ三年生のすることか!」 「卑劣な手を使うなんて高校球児の風上にも置けないわ」 猿野の必死の抵抗は紅印の一言でバッサリ切って捨てられた。 「照…もう御柳くんはキミに顔向けできないって」 『言ってないよー、ユキちゃん。勝手に御柳のセリフ捏造すんなー』 「不正行為をしたらそれを認めるのもまた勇気。ね、御柳くん。キミ、こんなことしておいて照に顔向けできないよね。今までにも色々悪いことを積み重ねて、最後には偽造まで…キミがしていない犯罪なんて、残りは殺人しかないだろう?ううん、もしかしたら耐震偽造をしたせいでそこに住む住民を間接的に殺してしまうかもしれない…つまり、キミの積み重ねてきたどんな小さな悪事でも人の命を奪うことに繋がるんだ。そうなる前に照に顔向けできるような真っ当な人間になりなよ。無理かもしれないけど…」 「要するに、大神さんに近付くなって最後通告か?」 「あら、ユタちゃんも賢くなったじゃない」 「合宿来てからそれしか言ってないじゃん、あの人…」 漸く由太郎も白雪の言っていることを訳せるだけの力がついた。 やっぱり人に教わるよりもリスニングの方が確実に力がつく。 それは英語でも白雪語でも同じだった。 「で、やろうって言い出したのは誰なの?」 紅印が地面に倒れた虎鉄を足蹴にして尋ねる。 その二人は怪しいSMクラブにも見える。 「な、なんとかしようと言ったのがオレDe…そこらで売ってるもので済ませようって言い出したのが猿野De…買いに行ったのがバブリっ子でSu…」 「つまり実際に不正行為に及んだのは猿野くんと御柳くんなのか。二人とも、今から反省の意味もこめて埼玉まで往復ランニングしておいで」 白雪は笑顔で猿野と御柳にそう告げた。 「さて、採点に戻ろうか。とはいっても、他はどれも綺麗にできてるから甲乙つけがたいんだけど」 「最初にCチームとAチームを採点したのがそもそもの間違いだと思うな」 兎丸が溜息を吐いた。 「もういいからさー、監督。ボク、おなかすいたー」 「そうそう、お昼食べたい気ー!」 チビッ子二人がなかなか豪華な食事を目にして騒ぎ始める。 全くはしゃがない神鷹が珍しく泣きそうな目でいるのを紅印と影州は見た。 『・・・私 全部作らされた・・・二人 ずっと はしゃぐだけ・・・』 「・・・可哀想に」 「同情するぜ。ほら、コレで涙ふけよ」 影州がハンカチを取り出し神鷹に渡す。 その光景を何も知らずに見ていた由太郎はまた新しいカップルができるのかと内心うんざりしたという。 あとがき 久々更新、合宿シリーズ。 どことなく神鷹と影州がフォモぽい道へと歩みだそうとしているようにも見えます。 そして珍しく犬飼が一言も喋ってないことに今気づきました。 ごめんなさい。 |