※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。 ※沖君の助力で大神さんの霊が降臨なさっています。 白雪に言われるまで誰一人として思い出さなかったこの事態がすごいと思う。 犬飼は素直にそう思った。 大阪やら空蝉やら浮気騒動やら色々あったから忘れていたのだ。 学生の本分―――勉強を。 白雪が「夏休みの友」「夏の生活」をもってきた時に場が本気で凍りついていた。 真面目そうな各校主将も忘れていたっぽい。 屑桐、牛尾の呆けた顔など、たぶんこれから先も滅多に拝め―――ないとは言えないかも知れないが、とにかく珍しかった。 ともかく、埼玉選抜に選ばれた高校球児達は皆して夏休みの宿題と格闘していた。 神鷹とクワットロはものすごく黙々と進めている。 同じ学校の、同じ学年の人がいないとここがわからないとか言えないよなぁ、と兎丸は思った。 もっとも、自分の場合は同学年の2人に答えを見せてもらうなんて事はしない。 そんなことをすれば確実に自分の成績が下がる。 というか、基本的に選抜に選ばれた一、二年生は、学力が低い順でもあると思う。 一年生は、特にAチームなんてどうやって高校を選んだのやら。 由太郎はきっとお兄さんに家庭教師でもしてもらったか野球推薦かのどっちかだ。 御柳も、おそらくは野球推薦。 他の二人は、兎丸の考え付く限りは不正入学の線が最も濃い。 「ここわかんない。教えて、冥」 「オレも分からん」 「冥、ちゃんと受験して十二支入ったんだろ?じゃあオレより頭いいじゃねーかよ。わかるだろ、これぐらい」 「とりあえず、オレは授業についていけずに辰の作ったカンニングペーパーで試験を受けているレベルだぞ」 「犬飼、テメェ今何て言っTa?」 発覚すれば部活動停止措置ぐらいにはなるだろう事をさらりと言った犬飼。 虎鉄は思わず持っていたシャープペンシルを真っ二つに折ってしまった。 「お前ら、うるせーよ。見ろよ、こいつなんて勉強できないなりに問題と格闘してるんだぜ?」 影州が隣に座る白春を指差した。 白春はじっと夏休みの友とにらめっこしている。 意外と頑張り屋なところがあるものだ。 10秒経過。 20秒経過。 30秒経過。 白春はまだ夏休みの友を睨んでいる。 ページをめくる気配が無い。 「・・・・・・」 影州は不審に思って耳をそばだてた。 「・・・すー・・・すー・・・」 聞こえてくるのは安らかな寝息。 「寝てんじゃねーよっ!」 「うわぁっ!?」 思いっきり耳元で叫んでやれば、白春はビクッと身体を震わせた。 「な、何すんだ!?」 「バカか、お前は!オレ様が珍しくフォロー入れてやったのにぐっすり寝るな!目を開けたまま寝るな!」 「目ェ開けたまま寝られんのは、オラの特技ング!」 「誉めてねーよ!」 「監督、ここがわかりません」 「どれどれ?」 うるさいのは無視。 猿野は夏休みの友を持ち、不自然なほどに白雪に密着した。 下心があるのが丸わかりだ。 「数学なんだけど、オレ、数学苦手なんだよなー」 「数学はね、答えがわからなかったら適当な数字を書けばいいんだよ」 「・・・・・・」 「大丈夫大丈夫、1とか3とか適当な数字を書いておいても意外と当たったりするんだから」 「・・・・・・・・・やっぱり自力で頑張ろうと思います」 「そう?またわからなかったら相談してね」 絶対に相談しない。 その場の全員がそれを確信していた。 確かに答えを尋ねるフリをしての密着状態というものはおいしいものがある。 しかし、勉強に関して全く使えないと言うこの事実。 「あー、わかんねー!大神さーん、ここ教えてくれよー」 御柳が大神を呼ぶ。 その途端、刀を抜く音が聞こえた。 「御柳くん、宿題ぐらい自力でやろうね」 白雪が切っ先を御柳の喉元に突きつけていた。 御柳は冷汗を流しながら小さく「はい・・・」と返事をした。 「ユキさぁん、読書感想文手伝いングしてー」 白春が『ぐりと●ら』を持って白雪の隣に座る。 今あった出来事はどうやら彼の目には映っていないらしい。 白雪は刀を納めると、にっこりと笑った。 「うん、いいよ。ぐりと●らの感想を書くのかな?」 「うん゛!」 「・・・・・・こ、怖かった・・・・・・」 御柳は本気で震えながら再び夏休みの友と向き合った。 そして2時間後。 神鷹がおもむろに拳銃を取り出した。 隣に座っていた雀が少し興味を示す。 神鷹はそれに気付くが全く雀の視線を気にとめず、分解を始めた。 「課題?」 『そう。分解、部品を磨く、組み立て。すべて手作業。興味ある?』 「興味大」 『やってみる?』 かちゃかちゃ。 拳銃を分解して組み立てる音がする。 その様子を見ていたクワットロも拳銃を取り出す。 「そうじゃ、ワシもディエチから課題をもらっておったのう」 「・・・銃刀法て法律、あたような気がするヨ?」 桃食がその様子を恐々と見つめている。 が、埼玉選抜の監督もさっきから笑顔で愛刀の手入れをしている。 「自分の獲物の手入れはしっかりしておかないと。君達だってスパイクを磨いたりするだろう?それと同じ事だよ」 「危険度が全然違うと思います」 牛尾が言った。 スパイクは野球に使うもの。 本物の刀や拳銃は健全なスポーツには使わない。 「さて、みんな。宿題はどれぐらい進んだのかな?」 白雪がチェックしようと手を出す。 素直に差し出すのは3年生達。 特にセブンブリッジの面々は何の躊躇も無く夏の生活を差し出した。 白雪はパラパラとそれをめくる。 「へぇ・・・セブンブリッジの子達は皆レベルの高い問題をやっているんだね」 「一応、こう見えても全員が同じ学校に入るために努力したからなー。それに新設校だし、やっぱ他のところに比べてレベル高けーんだよ」 「よく言うわよ、アンタだけ一向に成績上がらなかったくせに。アタシがどれだけ苦労したか。ともかく監督、正解率を見るのならアタシ達の正解率は影州以上です」 ちょっとへこむ影州だが、それでも成績は学校の中では上位だと言う。 意外と頭がいいと知った猿野、小饂飩、虎鉄は裏切り者とばかりに影州を睨む。 「牛尾くんも屑桐くんも、ちゃんとできているね。小饂飩くんと緋慈華汰くんは、もう少し頑張ろうね。神鷹くんとクワットロくんは・・・うん、いいんじゃないかな。村中くんも、頭いいんだね」 次、2年生とばかりに白雪は手を伸ばす。 が、2年生は3人とも課題を抱きかかえ、渡す気配が無い。 どうやら全員、解答が間違いだらけだと言う自覚はあるようだ。 「見せるんだ」 「・・・勘弁してくださいYo・・・」 「だって全然できてなさ気だし・・・」 「ユキさぁん゛・・・」 「春くん、いい子だから見せて。ね?」 容赦なし。 白春が瞳を潤ませて、しゅんとなっているのに。 白雪ときたら、その手から強引に課題を持っていった。 「・・・・・・春くん、勉強頑張ろうね?」 「・・・・・・あ゛い」 「虎鉄くん、朱牡丹くん、君達もちょっとひどいんじゃないかな?」 次に攻撃対象となったのは一年生。 が、全員が既に諦めモードだった。 仲のいい白春ですら白雪に逆らえなかったのだ。 自分達がどう足掻こうとも、この酷い出来の課題は白雪の手に渡るだろう。 「まずは沖くんだね。・・・うん、なかなか良くできているよ」 「・・・だって、授業ちゃんと受けてれば・・・分かるよ・・・」 「そうだよね。次は兎丸くんか。・・・兎丸くんもちゃんと出来ているね」 「これぐらい出来ないほうがおかしいんじゃない?」 兎丸が優越感を漂わせた目でAチームを見た。 「イチャイチャしてて、それで勉強の方が疎かになっちゃった、どっかのピッチャーさんとサードさんじゃないもーん」 「くっ・・・」 「とりあえず・・・言い返せねぇ・・・!」 御柳と犬飼は言葉につまり、悔しそうな顔をする。 「・・・だが、オレは芭唐と一緒にいられるんなら留年しようが退学になろうが構わん!」 「冥っ・・・オレも冥と一緒にいられんなら退学上等!」 「今時高校中退していい就職先があるとでも思ってんの?」 兎丸が二人を完全に見下した。 「いい就職先も見つからずに恋人養って生きてこうなんて世の中そんなに上手く出来てるわけじゃないんだよ。そうだよねー、白雪監督」 「そんなことも無いよ。世の中にはいい人がいるからね。ボクが未亡人だって言っただけでお金くれるおじさん達はいっぱいいるもの」 「アンタそれヤバイから!」 影州は本気で白雪の心配をした。 この人、そのうち誘拐されそうだ。 埼玉に帰ったら誰かボディーガードを雇った方がいい。 女性限定で。 そのほうが白雪のためだ。 「そんなことよりもAチームの成績は酷いね。村中くんはともかく、3人は壊滅的な正解率じゃないか」 と、白雪の横に現れた大神(幽霊)がそれを覗き込む。 『うわ、犬飼に御柳・・・お前らの成績、ユキ並に酷いな』 「ちょっと大神・・・ボクの成績ばらさないでよ・・・それに、確かにボクは酷い成績だったけど・・・っここまで酷くは・・・」 白雪の目から涙がこぼれた。 大神(しつこいようだが幽霊)は慌てて謝った。 『わ、悪い、ユキ・・・そうだよな、お前の成績はここまで酷いって事もなかったし・・・オレが悪かった、ごめん!』 「ううん・・・いつもテストのたびに迷惑かけてたのは事実だし・・・」 『迷惑?ユキがオレに頼ってくることを迷惑だなんて思ったことは一度も無いぜ』 「本当に?」 「ともかく、本当に酷い正解率だって事かな」 「御柳、お前は本当に試験を受けたのか?」 牛尾と屑桐にここまで言わせるほどに二人の成績は酷かった。 しかし犬飼と御柳は逆に開き直る始末。 「成績が悪かったらプロになれないなんて事ないでしょう、主将!」 「オレ達は二人共プロになって、それでお互いを養って、幸せな家庭を築くからもうイイんすよ、屑桐さん!」 『寝言 寝てから言え』 「同意」 神鷹と雀がこそこそとバカにしているのにも二人は気付かない。 「お猿の成績はどうング?」 「くぇー」 白春とビッグフット(白雪のペットのペンギン)が猿野に近づいてきた。 猿野は課題を白春に見せる。 白春は数秒それを見つめた後、首を傾げた。 そして更に数秒。 「・・・わかんねーな゛。食え、ビッグフット」 「何食わせてんだ!!!」 猿野は慌てて白春の手から課題を引っ手繰った。 ビッグフットはせっかくの御飯を取られて怒っているようだ。 「くえええええ!!!!!」 「うるっさいわ!人が無い脳味噌しぼって頑張って書いた努力の結晶をこんなペンギンなんぞに食われてたまるか!だいたい紙食うのはペンギンじゃなくて山羊・・・」 「猿野くん?」 怒鳴っていた猿野は背後から殺気を感じた。 そっと振り向くと今までの涙は何処へやら、白雪がとても冷たい目で猿野を見ていた。 しかもその手にはさっきまで手入れしていた日本刀。 切っ先が背中に当たっている。 「か、監督・・・」 「ボクのビッグフットになんて言ったの?『こんなペンギンなんぞ』?ちょっと酷いんじゃないかな?ビッグフットは、ボクと大神の愛の証しだよ」 「水をさして悪いんだけどよ。人と人からはどう頑張ってもペンギンは生まれないぜ?」 「ナカミヤさん、きっとビッグフットの中にはちっさいおっさん入ってるんだよ」 影州と由太郎はかなり離れた場所に避難してこそこそと話していた。 「ビッグフットはお腹をすかせていたんだ。春くんは優しいから餌をあげようとしただけなのに」 「・・・本当に優しい奴なら、人の課題を餌にはしないと思う気・・・」 「言うな、録・・・」 「ところで、お昼からはどんな練習をしようか?何かいい案はないかい、中宮くん、村中くん、屑桐」 「そうねぇ・・・やっぱり走り込みを中心に、守備練習を組むべきだわ。打撃も大切でしょうけど・・・」 「いや、打撃中心だろう。投手陣は投げ込みに専念して、他の者は打撃練習だ。守備は、オレ達投手陣が完璧であればたいした練習はいらん」 「確かに。御柳殿と由太郎以外に長打を打てる者が数少ないと言うのが我等の弱点。ならばそれを補うべし」 3年生達は猿野を見殺しにした。 白雪の迫力に腰を抜かしそうになっている猿野を見て、御柳と由太郎は「やっぱりあの刀はオレ達を切り捨てるためのものだったのか・・・」と確信し、以後は出来るだけ白雪に逆らわないようにと心に決めた。 その御柳の手は犬飼がしっかりと握っていたことは、その場にいた全員が見ないようにしていた事実だった。 あとがき 星夜の地域では夏の生活でした。皆さんのところではどうでしたか? どうも夏休みの友派が多いみたいですが。 どうでもいいことですが、高校生は学校側からのプリントとかで夏の生活はないですよね。 |