※このお話では犬飼と御柳が結婚を前提のお付き合いをしています。







チェックポイントその一と書かれた看板の前に埼玉選抜の人だかり。
その多くは絶句し、真っ青な顔だ。

『指令。野球とはチームワークと信頼感によって本来自分達が持ち得る最高の力を出しきりプレイする球技だ。そこでボクは、君達にチームワークと信頼感を示してほしい』

ここまではまともだ。
あの監督にもまともなところがあったのか、と一同が感動を覚えかけたとき、クワットロが続きを読んだ。

「『パートナーと30秒間キスをすること。これは他校の人との間にチームワークを生むためであり、また、この人になら一生を捧げてもいいと言う信頼感が必要だ。ボクも大神になら一生を』
ああ、ここから暫くは惚気じゃな…
『なお、どうしてもキスができないという子はそこに10キロのダンベルがあるので、それを4つリュックの中に入れることで指令を免除する』…やっぱり監督は監督じゃ…」
「40キロなんて背負ったらタイムは遅くなる…だからといって好きとも何とも感じていない子とキスするのは…」
「オレは嫌気!」

考え込む牛尾を見て録は本気で嫌がった。
牛尾はチッと舌打ちをする。

「朱牡丹君、それはボクに+40キロ背負って走れってことかい?キス一つの方が楽じゃないかなって思うのはボクの気のせいなのかな?」
「…十二支の主将よ…主には確か恋人がいたのでは…」

魁の恐る恐るといったツッコミに牛尾は笑顔をつくった。
なんだか恋人自慢といい嫉妬深さといいこの性格といい、牛尾と白雪は結構似ているのかもしれない。

「うん。葵はボクがいないと生きて行けないだろうし、ボクとしても浮気はよくないと思うよ。だけどそもそも何とも思ってない相手とキスするのって浮気じゃないと思うんだ。ぬいぐるみや人形にキスするのと同じでね」

録はモノ扱いか。
全員がさすがにそれはひどい言い様だと思ったが、牛尾はもっとひどいことをさらりと言った。

「相手が葵の写真や人形だったらキス以上のことをするんだけど、朱牡丹君相手にはそこまでしないから安心してボクにすべてを委ねればいいよ」
「くっ、屑桐さあぁん!こいつ、ヤバ気!」

録は真っ青になって助けを求めた。
屑桐は助けようとするが、ほぼ全員から録のことはあきらめろと止められた。
前言撤回、やっぱり牛尾と白雪は全然似ていない。

「長い人生の中のたった30秒じゃないか」
「そのたった30秒でその後の人生がメチャクチャになることもあるんだぞ、牛尾!録が一生もののトラウマを背負うことになると知れ!」
「虎×馬とか言わないでくれるかい、屑桐!」
「言っとらん!」

「……30。ホント、30秒なんてすぐだよね……」

沖が溜め息をついた。
どうやら屑桐と牛尾が言い争いをしているこの間に沖と神鷹はキスし終わったらしい。
お先に、と二人は駆けて行った。

「…沖…」

嘘だろう、と魁と小饂飩は茫然。
その二人の肩をパートナーがつつく。
二人が振り向いた途端に雀とクワットロはパートナーの唇を奪った。

「なっ…」

絶句する牛尾達。
まずい。
これでは華武と十二支の成績がひどいことになる。
華武は確実に一人リタイアしているし、十二支の中でここまでたどり着いているのは今のところ牛尾ただ一人。
黒撰の成績は由太郎が御柳の愚行で引き返し、屑桐と組んでいる緋慈華汰以外の三人はチェックポイントを通過している。

「朱牡丹君!四の五の言っているヒマはない!ボク達も口付けを!」
「浮気だって十二支のショートに言いつける気だよ!」
「大丈夫!これは仕方のないことだと葵には言い聞かせるから!」

「・・・・・・緋慈華汰。ダンベルをリュックに詰めろ」

屑桐は白春への愛を取った。
白春以外とキスするぐらいなら40キロを背負ったほうがましだ。
というか何故牛尾は妥協しないのだろう。

「あ、揉めてるね」

きた。
猿野に似ている、なんか透けてる幽霊の背中で嬉しそうにしている監督が。

「あれ、皆クリアしちゃったのかな?ダンベル持たずに・・・」
「か、監督・・・助けて・・・」

録が泣きそうな声を出す。
と言うか泣いている。
白雪は暫し考えた後、いきなりその様子を写メール。

「・・・・・・」
「司馬君に送信っ、と」
「ちょっ・・・なんて事をするんですか!」

牛尾が狼狽した。
白雪は微笑んで一言。

「タイトルは『こんな現場見ちゃった・・・』、本文は『このこと、司馬君に知らせておいたほうがいいと思って。・・・泣きたくなったらいつでも相談相手になってあげるから、あまり溜め込んじゃダメだよ』」
「泣かせてるのはあなたでしょう!?なんてことをしてくれたんですか、ボクの葵に!」
「だって、恋人が浮気なんかしたらショックじゃない。・・・ねぇ、大神?」
『何言ってんだ、オレが愛してるのはユキだけだっての。あいつ等は子どもだし、相手もいるし。何より、今から子どもとコミュニケーション取れるようにしなきゃ、ユキちゃんが将来オレのBIGな子ども産んでくれた時に悪いお父さんになっちまうだろ?』
「うん・・・大神は、ボクとの子どものことをちゃんと考えてくれたんだね・・・うれしい・・・それをボクは嫉妬しちゃって、恥ずかしいな・・・」
『ちゃんと反省できるのがお前のいいところだろ。そういう所も好きだぜ、ユキ』
「イチャイチャしてるところ申し訳ありませんが、死人と生者の間に子どもが生まれる訳ないでしょう!」

司馬に謝罪メールを送りながら牛尾は怒鳴った。
その間に録はリュックにダンベルを詰める。
録は牛尾とのキスを止めた白雪に初めて感謝した。
しかしそもそもの原因は白雪が作った指令だと言うことは忘れている。



一方、第2チェックポイント。
『選抜チームの選手名をフルネーム(漢字)で18人書くように』

幾分、いや、かなり優しくなった問題に思えた。
競馬参加者は20人。
思い出せる名前から書いていったときにふと全員の手が止まる。
考え込んでいた中、沖が一言。

「・・・普通は緋慈華汰先輩とクワットロさんの名前を書かないよね・・・」
『うん』

神鷹はチームメイトの名前を書きながら頷いた。

「・・・意外と、漢字わかんないね・・・」

後から追いついてきた屑桐たちも用紙を前に困っている。
猿野天国、虎鉄大河、犬飼冥、村中由太郎ぐらいなら簡単に書けるのだが、コウドンとかタオシーってどんな漢字だ。
クイーン&エースなんて完全に当て字だ。
ピノのピなんて漢字はない。

「・・・・・・・・・今更ながらに、これってあの監督にものすごく有利に出来てるよな・・・・・・・・・」

桃食に唇を奪われた猿野(というかお互いに攻の座を譲らなかった)がずるい、と呟きながら適当な漢字で埋めていった。
が、その白雪が用紙を持ったまま固まっているように見えるのは気のせいだろうか。

「・・・あのー、監督?」
「何かな?」
「漢字でかけますよね?」
「ふふ、何言ってるの?猿野くん。当然だよ」
「ですよねー」
「書ける訳ないじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『ユキ、勉強苦手なんだよ。テスト前とかオレの家で勉強してたもんな』
「そうそう。数学とか英語とか、全部教えてもらってたね。でも保健だけは得意だったなぁ・・・」

猿野と同類じゃないか。
この人、どうやって出場メンバー表を提出していたんだろう。

『ユキ。王、桃、食べるで桃食な』
「あ、ありがとう大神」
「カンニングはありなんですか」

監督特権をフルに使っているとしか思えない。
仕方がないのでこちらも全員の解答用紙をつき合わせて解答。

そして走って走って―――――



「・・・黄泉、あれ何や?」
「・・・天国?アイツ、野球ガダメダトワカッテ、今度ハ男ヲ背負ッテ何ヲシテイル?」



大阪チームを無視して―――――





「はい、お疲れ様」

迎えてくれたのはメルのそっけない一言。

「リタイア組への課題は私が考えておくわ。白雪姫に任せておけないもの。順位だけど、これも後で発表するわね。ちょっとばかり不正があったようだから」
「それ、誰のこと?」

兎丸が息を整えながら聞いた。
幽霊と組んだ白雪だろうか。
パートナー捨てて逃げた自分だろうか。
ダンベル捨ててった虎鉄と影州だろうか。
それとも途中でパートナー入れ替えた奴等だろうか。
心当りが多すぎる。

「その辺のことも話し合うから、あんた達は部屋戻って、この子なんとかして頂戴」

メルが指差したのはぎっくり腰一歩手前状態の白春だった。










あとがき

なんとまぁ、体力のない。
旅館競馬編はこれでお終いです。
次回、白雪姫の憂鬱編。
珍しく元気がなく落ち込んでいる白雪監督。その訳は―――?
・・・・・・っていうのが書きたくてこれをさくっと終わらせ(略)