※このお話では犬飼と御柳がもういいよねこの説明







「そういえばさ、どうして監督ってあんなに犬飼くん達をおちょくって楽しむのかな?」

犬飼と御柳のケンカから丸一日。
兎丸が心底不思議そうに言った。
ヤってきていいよと言ったかと思えば邪魔しまくり、同じチームで組ませたかと思えば今度は修羅場。
くっつけたいのか別れさせたいのかが分からない。
これは「生かさず殺さず」のようなものだろうか。
くっつけさせず、別れさせず。
こっちとしては別れさせたいのだが(毎夜毎夜同じ部屋でラブシーンやられる身にもなって欲しい)監督にその気が見られない気がする。

「メル、理由知らない?」
「お前なら絶対何か知っているだろう」
「・・・・・・それだけのために私を部屋に呼びつけたわけ?それもこんな時間に?」

牛尾と屑桐に尋ねられメルはあきれ果てた。
彼等は夜10時にこんなごそごそと密談(でもないか)をする余裕があるのか。
しかも9時には寝てしまう白春まで無理矢理に起きさせて。
明日からの練習には自分も加わって夜9時には疲れ果ててパッタリ寝てしまうぐらい厳しくしてやろうと彼女は心に誓った。

「まぁ、いいけど。ユキ先輩はね、昔からそんなヤツだわよ」

白雪監督の過去が聞けるのだろうか。
ちょっと聞きたいような聞きたくないような、そんな気分で全員が姿勢を正した。

「あの人、中学校の時のあだ名すごかったの。白雪姫、姫、黒雪姫、(黒)カイン、るろうに、人斬り抜刀斎、ユキ、えーっとそれから・・・しずかちゃん」
「・・・・・・・・・」
「それだけいろんな面があるってこと。で、さっきも言ったけれど、ユキ先輩って基本的に楽しいことが大好き。その楽しいは自分の主観。つまり、ラブラブしてるあの二人を見てるのも楽しいけど、やっぱり刺激あってこそ・・・ってね」
「その裏を聞きたいのよ」

メルの話を遮ったのは紅印だった。

「ただラブラブしてるだけに刺激が欲しいって言うのなら、春ちゃんや屑桐君、牛尾くんや葵ちゃんだってそうでしょ?アタシと影州だって邪魔されてないわけだし」
「それはオレがお前に極力近づかないようにしてるかぐはっ!」
「つまり、どうしてあの二人だけがってことを聞きたいのよ」
「その前にお前今、弟を殴っただろ。そっちはスルーなのか?」

猿野が冷静にツッコミを入れる。
影州は紅印の拳を思い切り腹に受けて悶絶している。
誰もが影州に同情の目を向ける。
紅印と影州って、別にそういう関係じゃないのに可哀想だな、と。
いや、魁や神鷹などにしてみれば自分達が狙われなくなるだけさっさと兄弟の世界を作って欲しいのだが。

「・・・それは・・・なんていうかさ、あの子達の内面に深く関わって来るから・・・話していいものか判断つきかねるのよね」

メルは犬飼と抱き合ったまま(むしろ入ったまま)の御柳の耳を引っ張った。

「あいったたたた!!!!!何すんだよ、姉貴!」
「大神先輩のこと話してもいい?」
「いい!いいからもう寝かせろ!オレは今、冥と一つになる幸せを味わ」
「ああ、そりゃ悪かったわね。ごめんごめん。お休み、芭唐」

メルは御柳の耳から手を離した。
この容赦のなさ。
白雪も敵に回したくないけどこの人も敵に回したくないなー、と兎丸は思った。

「冥も芭唐も、信二もだけど・・・昔ね、大神って人に野球教わってたのよ。大神先輩、十二支の人だったんだけどね。十二支の練習が休みのときは3人に野球教えてたから、そりゃもう当時の恋人は大激怒したのよ。『自分よりも子ども達の方が大事なのか』って」
「・・・・・・へェ・・・・・・」

それはまた随分と過激な恋人をお持ちだったようで。
だが、それがこのバカップルとどう結びつくのだろう。

「その恋人がユキ先輩で」
「え、白雪監督って女なの?」

復活した影州が驚いたような声をあげる。
猿野も由太郎も妙に納得したような顔になっている。
確かに恋人同士といえば普通は男女な訳だけれど。
何か勘違いをしたな、と思う間もなく、猿野が盛大に噴き出した。
如何わしい事を想像したのだろう。

「ちなみにこれが中学時代のユキ先輩で、こっちが十二支時代のユキ先輩」

メルの出した写真にはセーラー服を着た可憐な美少女が写っていた。
ちょっと困ったような目をして恥ずかしげにこちらを見つめている写真に猿野と小饂飩が鼻血を噴いた。

「も、萌えの世界・・・!」
「メルさん、これいくらっスか!?」
「・・・・・・言っとくけど、それ女装写真だから。下半身はちゃんと付いてるもん付いてるわよ?」
「「構いません!」」
「でもこれ、マニキュアの色がちょっと似合わないわねぇ・・・どっちかっていうともうちょっと明るい色が似合うわ」

盛り上がる一部。
メルはそれを複雑な目で見て、兎丸達に向き合った。

「とにかく、それはもうすごい怒り様でね・・・3人が十二支に遊びに来たとわかった途端に本職(キャッチャー)からマネージャーに転向して大神にドリンク渡したりタオル渡したりの見せつけ、それを注意されりゃキャッチャーマスクで顔を隠して暴投したフリして3人の顔面に剛速球投げつける、お昼休みに3人の話が出ただけで隠し持っていったボールを大神にぶつけて大泣きする・・・そういえば、ナイフ持ち出して『大神はボクのことを本気で愛してくれてないんだろう?ボクがいなくても大神は生きていけるかもしれないけれど、ボクは大神がいない世界では生きていけない。それなら大神の心がボクからなくなる前にボクは死ぬ。だから永遠に大神の心にボクを焼き付けて・・・』なんて言ったって話も聞いたわ」
「それ、何処からが誇張で何処までが本当なんですKa・・・?」
「最後のやつは人づてに聞いただけ。後は全部見たことがあるわよ」

嘘だと言えない。
あの監督だから。

「さて、ここで問題です。これだけ嫉妬深いユキ先輩が、かつての恋人・・・や、本人は未亡人気取りでいるからいいんだけど・・・」
「・・・大神ってやつ、死んでるの?」

由太郎はメルの言葉の一つを聞き逃さなかった。
白雪は未亡人。
それってつまり―――

「あー、うん。もう和解済みだからいいんだけど、芭唐を庇って死んじゃった」
「え・・・」
「冥と和解したとは言っても芭唐本人が今でもすごい罪悪感背負ってるから軽く触れないでね。もし軽く触れた奴がいたら、私がそいつを殴るから」
「あ゛い!」

一番軽く触れそうな奴が一番良いお返事をしました。

「・・・・・・しまったぁ、白ちゃんに聞かせるんじゃなかったわ、この話・・・・・・」
「えー、何で何で?オラ、ちゃんとお口にチャックするよ゛ぅ!」
「信頼されてないんだな・・・」

猿野はちょっと白春を哀れに思った。

「・・・ま、そんなわけでユキ先輩は大神先輩にまとわりついていた3人組を見かけました。どうやら冥と芭唐は付き合っていて、信二は冥に片想いという絶好の修羅場の材料が揃っているようです。大神先輩との恋路を邪魔した3人が目の前に現れたときのユキ先輩の行動はどうなるでしょう」
「・・・・・・・・・」

なんとなく全員が悟ったような顔をした。
誰も回答を口には出さないが、きっと答えは同じものだろう。

「・・・さっすが、十二支のOB・・・」
「思考と行動力が牛尾主将の更に上を行ってるお人だNa」
「そこの二人、後で公園100周を全力疾走するように」

兎丸と虎鉄のひそひそ話を聞いてしまった牛尾は爽やかな笑顔で二人を脅した。

「わかったかしら?ユキ先輩は大神先輩との愛の一時を邪魔された腹いせと自分の楽しみのためだけに二人にちょっかい出すのよ」
「うん、すごくよくわかった。白雪監督のおかしさが今に始まったことじゃないのはよくわかった」

兎丸が頷き、白春を除いた全員が同意する。
白春は首をかしげて「ユキさん、変?」と言うばかりだ。
そこへ。

「良い子の皆、もう寝たかな?」

いつもと変わらぬ笑顔で襖を開ける白雪。
タイミングがいいのか悪いのか分からない。

「あれ?もう夜なのにまだ皆元気そうに起きてるね。メルも一緒になって、何してたの?」
「ユキ先輩の・・・」
「ストップ!」

牛尾、屑桐、兎丸が一斉にメルの口を塞ごうとした。
メルはそれを軽く交わし、にっこりと微笑んで見せた。

「・・・言う訳ないでしょ。で、そういうユキ先輩は何しに来たの?」
「明日からの練習メニューを組んでみたんだけど、どうかなって思って」

白雪はプリントの束をメルに渡した。

「・・・」

メルの顔が次第に厳しいものになっていく。
周りのものがどんな練習なんだと思い始める。
最終的に彼女はプリントの束を白雪に投げ返した。

「遊んでんじゃないわよ、白雪姫。何、この『競馬(掛け金は千円から)』って」
「うん、十二支名物」
「・・・・・・御門、天国、比乃、大河。アンタ達の学校は部活動の一環として賭け事を推奨するの?」

一瞬何のことかと思った4人だがすぐに思い当たるものがあった。
校内競馬だ。
あの男二人がペアになって競うアレだ。
そういえば虎鉄と猪里はどっちが肩車をしたのだろうか。
兎丸と猿野はそっと虎鉄を見た。
身長は虎鉄の方が高いが体重は・・・・・・

「何じろじろ見てんDa」
「ううん、なんでもないよっ!」
「それよりメルさん、それは別に中央競馬場で三連単とかやるものじゃなくて校内競馬って言うもんで・・・」

兎丸と猿野は虎鉄の問いかけを爽やかに無視して校内競馬の説明を始めた。
その説明を聞いてものすごく楽しそうな顔をするのは紅印。
対照的に鬱な顔になってくる者が大半。
紅印と当たったらと思うと。
やっぱりここは双子の弟と組んでもらったほうがいいと思う。
身長同じだけど。
体重も、もしかしたら同じかもしれないけど。
ちなみに影州の体重は70kg。
御柳と同じである。

「それでね、その校内競馬を大きなスケールでやりたいんだ」

とても楽しそうな白雪の表情。
それは一見すれば美女の提案にも似たもので、小饂飩と影州は一瞬、紅印と組もうが構わないのでこの美人さんの言うとおりにしようかと思ったほどだった。
だが、メルは騙されない。

「却下」
「どうして?」
「白雪先輩のことだからどうせ旅館でやりたいとか言うんでしょ。旅館の人に迷惑だから却下」
「それは大丈夫だよ。もう既に旅館のほうには了解を取ったからね〜」
「・・・その無駄な行動力は何処から出てくるのかしら・・・」

メルは頭を抑えた。
学校の勉強はさっぱりでいつも大神に面倒を見てもらっていたくせに、ろくでもないことにはかなり頭が回るのが白雪だ。

「そういうわけで、明日は競馬をするから下の人間はちゃんと寝て体力を回復させて置くように。組み合わせはこのプリント通りでいくからね」
「はぁ・・・」

屑桐はプリントを受け取り、それにざっと目を通した。
そして心の底から安堵の溜息をついた。
自分も白春も紅印とは組まないようだ。



が、それを見た全員のうち絶叫を上げたのは一人二人ではなかった。










あとがき

ちなみに犬飼は185cm67Kg、御柳184cm70kg、影州183cm70kgです。
次回、始まる校内競馬。