※この話では犬飼と御柳がとっても仲良しです。






雉子村とか言うヤンキーがオレの芭唐に喧嘩を売った。
正確に言うと華武高校に喧嘩を売ったのだが、正直御柳以外はどうでもいい。
ただ、乱暴された5歳児のようにワンワン泣き続けた奴がいる。
バスに乗ろうが宿に戻ろうがいつまでたっても泣き止まず、最終的に雉子村親子が菓子折りもって菖蒲監督のところに謝りに行ったという話を人づてに聞いてから、華武のレギュラー(と、何故か芭唐を泣かせた憎き雉子村親子)に同情するようになった。
負けたことに対する同情じゃない辺り、確実に自分の思考が変になっていることを思い知らされる。
が、その後あれだけ雉子村親子を憎々しげに睨み付けていた猿野までが「あいつ等・・・可哀想だな・・・」などと哀れみの目を向けていたところを見ると、変になっているのは自分の思考だけではないようだ。



「芭唐・・・」

翌日の練習で犬飼は御柳に声をかけた。
なんていえばいいのか分からない。
雉子村の言うことなんか気にするな、お前にはオレがついている。
最初はそう言おうと思っていたのだが、夕べの白春の大泣きに疲れきっている彼には別の言葉が必要だ。
目の周りにメイクをする必要がないくらいにクマができている。

「・・・とりあえず・・・オレの腕の中でもう一度寝るか?」
「あー、そうしたい・・・そうしたいのはやまやま。けど、そうしたら白雪が何かやると思うからできない」

あの監督は物分りがいいが邪魔だ。
絶対に分かってやっているから尚更タチが悪い。
御柳も犬飼もそれはよく分かっていた。
何しろ夕食後に問い詰めたら「合宿はそれぞれの技術を磨く場でもある。君達がセッ○スの腕を上げるなら神鷹君だって盗撮、盗聴のスキルを磨く権利があると思う。それに君達と違って神鷹君のしているは成績にも繋がることでとても重要な事だと思うからだ」といけしゃあしゃあとした顔でのたまったのだから。
正直、こんなことなら監督は羊谷か菖蒲辺りに任せたかった。

「冥・・・オレ、なんで雉子村の球打てなかったか分かるか?」
「頭に血が上ってたからだろ。オレがベンチにいれば、お前をもっと落ち着かせてやることができたのにな・・・」

できるわけねーよ、と兎丸が呟いた。
キャッチボールの相手をしていた白春が首を傾げる。

「ん゛?なに、ウサギ?」
「あははー、なんでもないよ、マフラーさん」

彼の耳にこの話を入れたらまたけちょんけちょんにされたこと思い出して泣くだろうな、と兎丸は思った。
そんなことになったら正直ウザイ。
泣き止ませるのに一々屑桐を呼んで来なくちゃいけないのだから。
あんなところに自ら行って牛尾と屑桐の喧嘩に巻き込まれるなんて真っ平ごめんだ。
いい年こいて口きかない目もあわせないって小学生かあの2人は。
兎丸は彼らに対する罵詈雑言の数々を押し隠して白春とキャッチボールを続けた。

「冥・・・違うんだって・・・・・・あん時さ、雉子村のヤローが言ったんだよ・・・『お前の好きな男が中学の時に投げたのと同じ下手投げの球だ。これなら打てるだろ?』とか言いやがって・・・・・・あのヤンキーが、冥の中学時代を知ってるかと思うと・・・オレ達の想い出が汚されたみたいで・・・っ・・・オレ・・・それが嫌で・・・っつい・・・カッとなって・・・」

そんなことかよ。
つーか思いっきり関係ないじゃん。
すべて御柳の思い込みじゃん。
御柳の言葉が聞こえていた録と兎丸は呆れた目を彼らに向けた。
そんなことで華武は負けたのか。

「・・・これ、屑桐さん聞いたら怒る気だよなぁ・・・」
「むしろまったく関係ない僕が怒りたいぐらいだよ。埼玉代表のくせにメンタル面の強化できてないんじゃないの、華武は」
「ある種の恐怖に対する耐性だけはメチャクチャついてるみたいだけどな」

キャッチボールを中断した影州が会話に入ってきた。
確かに年中冬型人間が菖蒲監督を見ても物怖じしない辺り、明らかにある種の恐怖に対する耐性はついている。
だが、雉子村親子を見て泣くあたり、やはりある種の恐怖に対する耐性だけしかついていないようだ。
まぁ、泣きたくなる気持ちはわからなくもないが。

「けどよ、こうも私情丸出しでやられると正直きついと思うぜ?」

影州の言うとおり、私情丸出しでやられたら御柳と犬飼は正直邪魔なだけだ。
なにしろ弱点が面白いくらいにわかりやすすぎる。

「白雪監督に言いつけるヨロシ」

桃食が怒った顔で近づいてきた。

「どうしたの、桃さん?」
「聞いてヨ、ウサギっ!華武の主将サンも同じこと言われて頭来たらしいヨ!」
「・・・・・・はぁ?」

桃食に言われ3人は屑桐の方を見た。
屑桐は牛尾とキャッチボールなどできるかと壁を相手に投げ込みをしていたが、ブツブツと呟く声はしっかりと全員に聞こえていた。

「あのアメリカヤンキーかぶれめ・・・オレの白春の肌によくもデッドボールなど・・・しかも実はわざとだと?その罪、万死に値するわ・・・見ていろ、次に対戦するときには貴様のその顔にぶつけて二目と見られない顔にしてやる・・・」

「・・・・・・オレ、屑桐さんのあんな顔、二目と見られなさ気・・・」
「よしよし、モバイルさん。僕の胸でお泣きよ。ちょっとマジで可哀想になってきたからさ・・・」

兎丸は録を抱きしめてその背を叩いてやった。
影州と桃食は無言で目を逸らす。

「・・・監督のところに直談判してくるか。まともな思考回路持ってる奴募って」
「その監督がまともな思考回路持ってないからどうしようもないんだけどね・・・ああ、ほら。またバカ犬君たちがイチャイチャし始めたよ」

そのバカ犬という呼び方はどうなんだと思うが、別に間違っているわけでもないとも思うので訂正しない。
ともかく監督が一番まともじゃないという点も否定できないので、とりあえず4人は菖蒲監督(格好はともかく思考回路は意外とまともなのかもしれない)のところへ行くことを決めた。





「って訳なんですけど、まぁ、単刀直入に言えば今すぐあの目障りな2人を埼玉に強制送還させてください」

兎丸は何処からか手にいれた赤福(露骨な言い方をすれば賄賂)を菖蒲監督に差し出し、いきなり本題に入った。
ちなみに赤福はとてもおいしく、よく菖蒲監督が白春とお茶をする際に食べているらしい。
お面つけたまま食ってんだろうかという脳内ツッコミは無視する。
菖蒲監督は暫く考える素振を見せる。
そして赤福を受け取り、戸棚の上に置いて言った。

「それはできぬ」
「テメェ、赤福受け取っといてその態度なんだよ」

アレ、高ぇんだよ。今すぐ返せ、と伸ばす兎丸の手を菖蒲監督は軍配で叩き落とした。
この食べ物に執着するところがそっくり白春に受け継がれているのかもしれない。
同じく食い物に釣られそうな桃食が華武に入らなくて本当によかった、と影州は思った。

「でも、監督サン。本当に困てるのヨ!」
「だいたい、夜中にイチャイチャするだけじゃ飽き足りないって言うこと自体が健全な男子高校生とは思えないんだけど」

兎丸がひりひりと痛む手をさすりながら怒った声を出す。

「ではこちらはそれを逆に利用すれば良き故」

菖蒲監督は事も無げに提案した。
思っても見なかった回答に全員顔を見合わせる。
あんなラブラブイチャイチャを利用?

「つまりは芭唐と冥をその気にさせて『勝ったらご褒美に大部屋じゃなくて個室が与えられるんだって』とか言えばやる気も起きるわけでしょ?」

全員にお茶を出しながら御柳の姉が言う。
ああ、なるほど。
馬の目の前にニンジンぶら下げるようなものか。

「なんでメルさんは協力的気なの?」
「あはははは、なんでかね?ま、可愛い弟と冥の為って言うか、別に毎夜毎夜人の部屋きて『ヤりたいんで泊めてください』なんて言ってくる子達がウザイからじゃなくてよ」

ウザかったんだ。
全員が絶句する中、彼女は一人笑っていた。
さすがに人様に迷惑かけているともなると部屋を追い出すのはまずいかな、と思う。
というよりも本気で昼間のうちに思う存分ヤっとけとも思う。

「そういうわけで、あまり他力本願ばかりしてないで自分達から仕掛けてみる手もあるとは思うわ。ただ・・・」
「ありがと、メルさん!」
「早速やてみるヨ!」

録や桃食がお礼を言い、4人はすぐに部屋をでて行った。
残された二人はのんびりとお茶を飲む。

「人の話は最後まで聞いたほうがいいと思うんだけど」
「まこと、その通り故」
「・・・あの手のタイプはあからさまにそういうこと言ったり急に普段とは違う態度を取ったりすると逆に不信感抱きかねないのに・・・」










あとがき

赤福はこの後、菖蒲監督とメルさんでおいしくいただきました。
匂いにつられて来た白春にも一つあげました。